逃がし屋青年の恋と音楽、カーアクション
《公開年》2017《制作国》アメリカ
《あらすじ》高度なドライブテクニックを持つ若者ベイビー(アンセル・エルゴート)は、犯罪組織のボス・ドク(ケヴィン・スペイシー)のもと、強盗の逃走用ドライバーをしている。
子どもの頃、運転中の両親の口論から交通事故にあい、両親は死亡し、ベイビーはジョーという里親に引き取られた。だが耳鳴りの後遺症が残り、それをごまかすため常にイヤホンで音楽を聴き、それ以外に録音した会話をもとに曲を作るという趣味を持っていた。
ベイビーとドクは10年前、ドクの車を盗んだことがきっかけで知り合い、ドクは車の借金を返済させようと、ベイビーに逃走車の仕事を請負わせていた。
銀行強盗、現金輸送車襲撃と、その度メンバーを変えて強行し、全て成功させている。
今回の仕事で借金返済が済んだベイビーは、ウェイトレスの恋人・デボラ(リリー・ジェームズ)ができたこともあり、宅配ピザの配達を始めたものの、再びドクに呼び戻される。
今度は郵便局強盗、メンバーはバディとダーリンのカップルと、いかにもヤクザ者のバッツの4人で、互いに疑心暗鬼の関係だった。
強奪し逃げる間際にバッツが警備員に発砲し、その乱暴なやり口のバッツに反発したベイビーは、車を追突させてバッツを殺害し、バディらとは反目するように別々に逃げた。
ベイビーは奪った車でジョーを迎えに行って高齢者施設に届け、口のきけないジョーのために細かな指示を録音テープにして、ジョーに別れを告げる。
ダーリンを警官との銃撃戦で失ったバディは仲間割れしたベイビーを追い、ベイビーは母の歌が入ったテープを取り戻そうと、デボラと共にドクのアジトに行き、ここで三人が鉢合わせをしてしまう。
ドクはバディに射殺され、ベイビーはバディを車ごとビル駐車場から突き落とす。
デボラの運転で二人して逃走を図るが、行く手にFBIが待っていて、ベイビーは諦めて投降し、あえなく逮捕される。
しかし裁判のとき、車を奪われた女性、郵便局窓口の女性など、さまざまな人の好意的証言を得て、懲役25年、5年服役後は仮釈放という処分が下される。
5年後、釈放されたベイビーをデボラが出迎えてエンド。
《感想》カーアクションに音楽、それにラブストーリーを適度にミックスして、クライムものなのだが明るく軽め、好印象な味付けになっている。
そして映画全体に、ひと時代前の映画を観ているような雰囲気、レトロ感が漂い、単純に“映画的快感”に浸らせてくれる。
それはレコードやカセットなどの小道具だけでなく、極悪人だがどこか憎めないキャラ設定、シャレた会話、程良いご都合主義、予定調和的に主人公が改心して更生する結末、全てエンタメの本道をいっているからか。
同じく“逃がし屋”を描いた『ドライヴ』(2011年)の任侠+バイオレンスの世界に比べると、映画全体が軽く、どこか寓話的で、気楽に観られる。
ストーリーに深みはないが、見事な映像と音楽の融合、リズミカルでスリリングな展開、破綻は起きないだろう安心感と後味の良さ、エンタメ作品としての完成度は高い。
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