映像も物語もヒロインも全てが美しい
《公開年》2018《制作国》イギリス、フランス
《あらすじ》1946年、大戦後のロンドンで作家として売れ始めた若い女性ジュリエット(リリー・ジェームズ)は、フランスに近いガーンジー島に住むドーシー・アダムス(ミキール・ハースマン)から一通の手紙を受け取る。
彼は「読書とポテトピールパイの会」に所属しているが、この会はドイツ軍に占領されていた戦時中に発足し、抑圧された暮らしの中で人々の癒しと憩いの場となっていた。
この話に興味を持ったジュリエットは、タイムズの記事にしようと島に向かう。島に発つ日、付き合っているアメリカ人軍人マーク(グレン・パウエル)からプロポーズされ、イエスと伝えて乗船する。
島に着いたジュリエットは読書会に参加し、メンバーと打ち解けていくが、創設のきっかけを作ったエリザベス(ジェシカ・ブラウン・フィンドレイ)には会えない、記事にすることはNGと言われてしまう。
話を聞くうち、ドーシーをパパと呼ぶ女の子キットはエリザベスの娘で、エリザベスはナチスに占領されていた頃、人を助けるために逮捕されたと知る。
詳しく聞きたかったが、それ以上はみな口を閉ざすため、ジュリエットは婚約者マークにエリザベスの行方を捜してくれる依頼する。
読書会で一緒の時間を過ごすうち、彼女とドーシーはお互いに惹かれるようになり、キットの父親はクリスチャンという赴任中のドイツ人医師で、エリザベスとは危険と知りながら恋に落ち、ドーシーとも親しい間柄にあった。
やがてエリザベスは妊娠し、クリスチャンは軍に無断外出が見つかって強制送還を命じられ、帰国途上の船が撃沈されて死亡した。
また、エリザベスが行方不明になったのは、逃げだした奴隷労働の少年を匿い、病院に連れて行こうとして少年は射殺され、エリザベスは逮捕されたのだった。
真相をドーシーから聞かされ、自分を責めるドーシーを慰めるジュリエットだったが、そこにエリザベスの行方情報を持ったマークが現れる。
逮捕されドイツに送られたエリザベスは、暴力を振るわれている少女を守ろうとして射殺された、と記されていた。
このことを皆に伝え、ジュリエットはマークと共に帰国する。しかし、既に気持ちがマークから離れているジュリエットは、マークに婚約指輪を返して別れを告げ、マークもそれを受け入れる。
それ以後、ジュリエットは読書会に関する執筆に明け暮れ、書き上げた原稿を読書会宛てに送る。出版が目的でなく、皆に読んでもらいたいだけと書き添えて。
この手紙を読んだドーシーはジュリエットに会おうとロンドンに向かい、同じくドーシーに会うため島に向かうジュリエットは、乗降客で賑わう港で再会し、愛を確かめ結婚を約束してエンド。
《感想》若く美しい女流作家が、占領下の島で行われたという読書会に惹かれて出向くと、国境を越えた禁断の恋があって、その秘密を守ろうとする島民の姿があって、強い信念と人間愛の下に行動した一人の気高い女性の存在があった。
謎が徐々に明かされる展開ではあるが、ミステリーというよりラブストーリーに重きが置かれ、物語自体はベタともいえるが、そのブレンドの具合が絶妙で、テンポも良くて惹き込まれた。
戦時下に敵国の医師と愛し合い、異国の地で帰らぬ人となったが、常に自分の気持ちに忠実に生きた女性を知ることで、作家自身も、本当の自分を模索し、自分の心に正直に生きようと出直す。
美しい風景の島で、純朴で温かい島民に支えられ、ヒロインが恋をする。リリー・ジェームズの透明感と気品のある美しさが光っている。
ハッタリも押しつけがましさもなく、ひたすら優しさに溢れた世界は、観終えた後“いい映画”に出会った心地良い余韻に浸らせてくれる。
ただ、それ以上の深みや面白さを期待すると落胆するかも知れない。
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