過去に戻って知る、大切な家族との“今”
《公開年》2013《制作国》イギリス
《あらすじ》少し気弱な21歳の若者ティム(ドーナル・グリーソン)は父親(ビル・ナイ)から「私たち一族の男はタイムトラベルの力を持っている」と告げられる。
いきなり知らされた能力に戸惑いつつ、ティムはタイムトラベルを試みるのだが……。
1)運命の女性メアリー(レイチェル・マクアダムス)と出会い連絡先を交換したが、間借りしている父の友人の脚本家ハリーの舞台を成功させるため過去に戻り、そのためメアリーの記録を失ってしまう。
2)再会しようとメアリーが好きな写真展に張り込んでそれを果たすが、既に彼氏がいて、その彼氏と会う前に戻り、無事交際にこぎつける。
3)メアリーと結婚し娘ができたが、妹キットカットが交通事故で傷だらけになったため、事故前に戻り修正した。ところが娘が全く別人に変わってしまい、事故を阻止することをやめて、子どもを優先させた。
4)父親ががんで亡くなった。会おうと思えば生きていた時間まで遡ることができるが、時を同じくして、妻は3人目の子どもが欲しいと言う。新しい命の誕生は死んだ父親との永遠の別れを意味する。
父と息子は過去の世界で再会し、卓球や海辺の散歩など最高の一日を過ごして、別れの前に父は息子に告げる。
「一日を過ごしたら過去に戻って同じ一日をもう一度過ごしてみなさい。そうすればきっと、一度目は気づけなかった素晴らしいことに気付ける」。
それを実践したティムは、何気ない一日こそ幸せであり、大切な一日であることに気付く。それからのティムはタイムトラベルをやめて、一度きりの今日を二度目であるかのように、大切に楽しんで生きている。
《感想》過去へのタイムトラベルがあまりに安易で、主人公に都合が良過ぎる展開に、前半の恋模様には退屈した。
ところが妹の事故、父親の死に遭遇するあたりから興が湧いてくる。「何かを得るためには、何かを失う」という選択を迫られる。
妹の事故前に戻って妹を救ったら大切な娘を失うことになり、新たな命の誕生を望むことは父親との永遠の別れを意味する。
時間を戻せたとしても、全てがいいことばかりではなく、永遠のものなどない。そして、大切な家族との“今”を選ぶ。
戻せないからこそ大切にしなければならないものがあり、“今”の何気ない時間にこそ幸せがある、と気付く。
前半の恋人ゲットの行動では、不純な下心がミエミエで好感度は低く、今一つ感情移入できなかったが、エンディングはしみじみとしたものだった。
監督リチャード・カーティスは、『ノッティングヒルの恋人』(ロジャー・ミッシェル監督)の脚本家で、有り得ないだろう男女の胸キュンの恋を巧く描いていたが、本作でもファンタジーの中に真摯なメッセージが込められていて、ツボを心得た見事な脚本だと思う。
少し頼りない男とオシャレでキュートな女性という組み合わせも、セクシュアルな笑いのとり方も似ている、と感じた。
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