『ブラインド・マッサージ』ロウ・イエ

闇の世界での、愛と欲望の群像劇

《公開年》2014《制作国》中国
《あらすじ》南京のマッサージ院では多くの若い視覚障害者が働いている。
シャオマー(ホアン・シュエン)は幼い頃の交通事故で視力を失い、いつか回復するだろうと言われながら、かつて絶望感から自殺未遂を図った過去を持つ。
院長のシャー(チン・ハオ)は結婚を夢見て見合いを繰り返すが、健常者との見合いでは断られ、マッサージ師として働く美人という噂のドゥ・ホン(メイ・ティン)に、美が何か分からないまま執着していく。
そのドゥ・ホンは、美しいと言われてもそこに意味や価値を見い出せず、苛立ちを憶えている。
そんな職場に、シャー院長の幼馴染みのワン(グオ・シャオトン)とコン(チャン・レイ)が駆け落ちしてやってくるが、恋人同士の二人が仲間に加わることで、職場内に波風が立ってくる。
シャオマーがコンに恋心を抱いて接近し、その想いと欲望を見かねた同僚がシャオマーを風俗店に連れていくが、今度はそこで出会った風俗嬢マン(ホアン・ルー)に惚れ込んで、二人はやがていい仲になっていく。
ワンには借金で追われる弟がいて、取り立て屋から脅されるが、金で話を付けるのではなく、目の前で自らの体を包丁で傷つけ、その凄みで取り立て屋を追い払ってしまう。
ある日、マンの元を訪れたシャオマーが、マンの客と大喧嘩になりケガを負ってしまう。だがその諍いの後に、今まで何も見えなかった目に、わずかな光と物の動きが感じられるようになる。
そしてシャオマーとマンは二人して姿を消してしまう。
またドゥ・ホンもドアに手を挟んで大ケガをしたことから、職場を去った。
やがてシャー院長が吐血し営業をやめたことで、ワンとコンは故郷に帰り、みな職場を去りそれぞれの道に散っていった。
シャオマーは、寂れた町の片隅で治療院を開き、マンと共に穏やかに暮らしている。

《感想》視覚障害者の恋愛や性を描いているので、「見る」という行為が欠落する分、触れる、匂いで感じるという行為で描かれ、それが観る側にはよりエロチックに映り、ムンムンするような濃密な世界へと誘う。
おぼろげなピンボケの映像、暗闇や音だけのシーンを多く盛り込み、見えない生活を疑似体験させるかのように描いていく。
一方、目を覆いたくなるような鮮血のシーンも何度か描かれ、これが強烈な印象を残す。見えない世界と見える世界を対比して描こうという意図と共に、障害者の痛みを訴えているかのようである。
美しいと言われることに苛立つ女と、その美しさを確かめようと顔に触れてくる男。理解し難い美の存在が彼らを苦しめる。
そして見えない世界に美はあるのか。あるとしたら、その美しさ、豊かさとはどんなものか、考えさせられる。
また、障害の有無を超えた人間の欲望を描き「本能をこそ見よ」と訴える強いメッセージは、息苦しくもあり切なくもある。
闇の世界に引きずり込まれて、そこには別の価値観で動く異世界があることを知る、貴重な一作である。

※他作品には、右の「タイトル50音索引」「年代別分類」からお入りください。

投稿者: むさじー

名画座通いの昔からネット配信の現代まで、温故知新、共感第一、ジャンル無節操をモットーに選んでいます。 何度も、観る度に感動する映画は大切ですが、二度と観たくない衝撃に出会うのも楽しみです。

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