『冬冬(トントン)の夏休み』ホウ・シャオシェン

大人の世界に触れ成長する少年のひと夏

《公開年》1984《制作国》台湾
《あらすじ》小学校の卒業式を終えた冬冬(王啓光)は、母が病気で入院しているため、夏休みを祖父のいる銅羅で過ごすことになった。
叔父の昌民(陳博正)に連れられ、昌民の彼女の碧雲(林秀玲)、妹の婷婷(リー・ジュジェン)と共に電車で銅羅に向かうが、途中婷婷がお漏らしをしたり、叔父が電車に乗り遅れたりのハプニングが起きる。
銅羅駅に先に着いた冬冬と婷婷が叔父を待つ間、その村の子どもたちと仲良くなり、祖父が開く診療所に着いた後も、玩具と亀を交換したり、川遊びに興じる仲になる。
男子は川遊びに夢中だが、女子の婷婷は仲間外れにされ、怒った婷婷が男子の服を川に流してしまったり、連れてきた牛が行方不明になったりと、子どもたちを巡る騒動は絶えない。
そこへ、皆が変な女だという寒子(楊麗音)が現れる。
また、トラックを襲う二人組の強盗現場を子どもたちが目撃してしまう。
更に碧雲の妊娠騒ぎが起こり、怒った祖父が昌民を家から追い出してしまう。
ある日、遊びに出かけた婷婷がまたもや仲間外れにされ、皆を追いかけるうち線路につまずき、危うく電車に轢かれそうになった。その時、寒子が咄嗟に助け出し、それ以来婷婷は寒子を慕うようになる。
寒子は知的障害を抱えていて、言葉が不自由で、雀捕りの男に弄ばれた末、妊娠していた。
冬冬はひっそりと結婚した昌民と碧雲の住まいを訪れ、かつて目撃した強盗犯の二人に出会う。二人は昌民の幼馴染みだったが、犯人を匿った昌民は警察に捕まった。
祖父の元に冬冬の母の容態悪化の知らせが入り、祖父母が台北に向かおうとするその頃、婷婷は拾った小鳥を寒子のところに持って行き、死んだ小鳥を巣に返そうと木に登った寒子が落ちて、診療所に運ばれる。
寒子は流産し、祖父は台北行きを断念した。
やがて、冬冬の母は容態を持ち直し、寒子は意識を取り戻し、昌民は祖父の力添えで釈放され勘当を解かれた。
祖父は寒子の父に避妊手術を勧めるが、「両親が死んだ後、子どもがいれば可愛がりもするし落ち着く」と寒子の父は承諾しなかった。
祖父は「親は子の面倒を一生は見られない。寒子は不幸だ」と冬冬に語る。
夏休みが終わりに近づき、台北から迎えに来た父と共に、冬冬と婷婷は皆に別れを告げて村を去りエンド。

《感想》前半は、のどかな村で素朴な遊びに興じる子どもたちの姿が延々と続き、懐かしい郷愁に浸れるが、やや退屈にも感じた。
後半、寒子の登場あたりから、複雑な大人の事情が見え隠れして、急に大人の世界に入っていく。
頼りない息子のトラブルで起こる父子の確執、平和な村に突然起こった強盗事件、知的障害を持つ女性の妊娠と今後、どんどん重い方向に変わっていく。
それらの事件の全容を子どもたちは理解できないかも知れないが、大人の世界との接点を持つことで抱く、子どもなりの違和感が成長の一歩になる。そんなメッセージが感じ取れる。
劇中流れる「仰げば尊し」「赤とんぼ」の曲には驚かされるし、日本統治時代の名残りとはいえ、外国とは思えなくなる。
また、淡々とした風景や室内の描き方、子どもの遊びや家族のつながり、どことなく小津作品に似たものがあるし、日本人に近い感性が見える。
エドワード・ヤン『台北ストーリー』にはホウ・シャオシェンが主演と脚本参加しているが、本作では、エドワード・ヤンが冬冬の父親役で出演し、かつ音楽を担当している。台湾ニューシネマ時代の交流も興味深い。

※他作品には、右の「タイトル50音索引」「年代別分類」からお入りください。

投稿者: むさじー

名画座通いの昔からネット配信の現代まで、温故知新、共感第一、ジャンル無節操をモットーに選んでいます。 何度も、観る度に感動する映画は大切ですが、二度と観たくない衝撃に出会うのも楽しみです。

「『冬冬(トントン)の夏休み』ホウ・シャオシェン」への2件のフィードバック

  1. 最初、「仰げば尊し」が歌われていて驚いた。台北駅から列車が発車する寸前にティンティンがトイレに行きたいといいだす。「風くいの少年」でもトイレの場面から始まった。母方の祖父のいる田舎で地元の子供達とすぐに仲良しになる冬冬。一方妹のティンティンは兄 に煙たがられる。私も子供の頃同様な思いをしたので良くわかる。ティンティン役の女の子、可愛くて好印象だった。ティンティンが線路に嵌まってしまい、寒子が咄嗟に助け出した直後、列車が猛スピードで通貨した場面が凄かった。どのようにして撮ったのだろう?医院の2階に寝かされていた寒子が起き上がった時のびっくりする美しい顔。ハッとする。淀川長治さんは、「この監督のなんというやさしさ、なんといういたわりかた、詩人で芸術家で根っからの”いい人”だ」と絶賛していた。「風くいの少年」に出た美少女楊麗音なのですが。

    1. コメントをありがとうございます。
      舞台が日本家屋の医院で、遊び場は昔懐かしい日本の田園風で、とても外国とは思えませんね。
      エドワード・ヤン「ヤンヤン夏の想い出」もそうですが、少年が大人世界を垣間見て成長する姿を淡々と描く、その優しい眼差しが好きです。
      「風くいの少年」は残念ながら未見なので、近いうちにぜひ。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です