温かい眼差しに満ちたラブ・サスペンス
《公開年》2013《制作国》アメリカ
《あらすじ》深夜、着の身着のまま逃げ出して来た女性エリン(ジュリアン・ハフ)は、実家の母の元に駆け込み、バスターミナルからアトランタ行き長距離バスに乗り込んだが、その後を刑事ケヴィン(デヴィッド・ライオンズ)が追っていた。
エリンは、サウスポートの小さな港町で降り、ケイティと名を変え、港近くのカフェで働き、森のコテージに住むことになった。
まもなく港のそばの雑貨店を営むアレックス(ジョシュ・デュアメル)とその娘レクシーと出会い、親しくなる。アレックスはジョシュという息子も持つシングルファーザーで、妻をがんで亡くしていた。
またケイティは、近所に住む女性ジョー(コビー・スマルダース)とも交流が始まる。
アレックスとは家族ぐるみで付き合うようになるが、レクシーはすぐ馴染んだものの、母親の死から立ち直れないジョシュは反発した。
だが、サウスポートの暮らしにも馴れ、アレックスとの距離は徐々に縮まっていくのだった。
一方、ケイティことエリンを執拗に追う刑事ケヴィンは、実はエリンの夫で、彼女に暴力を振るうため、エリンは夫の元から逃げ出していたのだった。
ケヴィンは、エリンを殺人犯として全国指名手配をして追いかけ、それを知った上司から停職処分を受けていたが、なおもストーカー行為は収まらず、エリンの母親を脅したり、忍び込んで電話の留守電から居場所を探ろうとするのだった。
ケイティとアレックスはデートを重ね恋人同士になるが、ある日、警察を訪れたアレックスが、エリンという名のケイティの指名手配書を見て驚き、ケイティに町を去れ、と告げる。
誤解を解くこともなく町を去ろうとするケイティ、別れようと決めたが諦めきれず追いかけるアレックス、二人は互いを理解し愛を確かめ合った。
しかし夏祭りの日、ケヴィンの脅威はこの町に迫っていた。ついにレクシーと一緒にいるエリンの前にケヴィンが現れた。
拒絶するエリンに逆上したケヴィンは、家の周りにガソリンを撒き、エリンは必死に止めたが花火の引火で火災になり、家は全焼してしまい、上階にいたレクシーはアレックスによってかろうじて救出された。
そしてエリンはケヴィンともみ合いになり、正当防衛からケヴィンを銃で撃った。
数日後、アレックスの亡き妻が残した「彼女へ」と書かれた手紙には「家族のことをお願い」と記され、それを受け取ったエリンは家族の一員になっていくのだった。
《感想》刑事である暴力夫から逃げ、再出発をする女性の物語で、自然の中で育まれる男女の感情の高まりや、子どもに悩み、子どもを思う家族愛が丁寧に描かれている。
また、全編恋愛絡みのサスペンスタッチで展開し、迫ってくるそのスピード感、テンポの良さに、ドキドキ感も味わえる。
更にエンディングに意外な見せ場が用意されていた。
アレックスの亡き妻は子どもたちに、人生の節目で渡す手紙を書いていて、その中の1通「彼女へ」と書いた手紙には、残した夫の未来の妻宛てに思いをしたためていた。そして同封の写真に写っていたのは、何と近所に住み親しくなった女性ジョーの姿だった。
ジョーは、自分の死後、残された家族の行く末を見守るために現れた亡霊(?)で、いきなりのファンタジー出現に驚かされる。
この手紙には素直に感動するが、このファンタジー化には正直戸惑った。
いまだに判然としないが、ただの隣人としなかったのは、ハルストレム流の微笑ましい仕掛けのような気もするし、家族再生の物語に必要だった脇キャラという気もする。
一方、ヒロインは殺人犯なのか、追いかける刑事が実は夫……と、オブラートに包んだ真相を次第に明かしていく演出には惹きこまれるが、突っ込み所もいくつかあって、サスペンスの出来は今一つといえる。
とはいえ、温かさに満ちた恋愛ドラマ、ヒューマンドラマとして、心地良さと深い余韻が味わえる佳作である。
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