『100歳の華麗なる冒険』フェリックス・ハーングレン

ブラックな笑いと風刺に満ちたファンタジック冒険譚

100歳の華麗なる冒険

《公開年》2013《制作国》スウェーデン
《あらすじ》老人ホームを抜け出した100歳のアラン(ロバート・グスタフソン)が事件に巻き込まれて追われる話と、その生涯で遭遇した様々な歴史的事件の冒険譚が並行して描かれる。
【過去】アランは9歳で自称革命家だった父を亡くし、更に母も病死して孤児になり、爆弾遊びに夢中になった少年は誤って人を爆殺し、送られた精神病院で、子孫を残さないよう去勢手術をされてしまう。
退院後は大砲工場に就職し、同僚の革命家に誘われ「打倒フランコ将軍」のために加勢していたら、はずみでフランコ将軍を助けてしまい親友になる。
その後、日米開戦の際には渡米して、原爆開発に一役買って、大統領から一目置かれる人物になった。
またソ連のスターリンと面会するものの、スターリンを激怒させ強制収容所に送られるが、手に入れた手榴弾で収容所をパニックに陥れ、逃亡した。
やがて、顔が広いアランは米CIAとソ連KGBの二重スパイをやり、とんだ誤解からベルリンの壁を崩壊させ、東西冷戦を終わらせる。
【現在】老人ホームを抜け出した後のアランは、ギャングの手下が持つ大金が入ったキャリーバッグを預かったままバスに乗り、ギャング一味から追いかけられる破目になる。
途中、廃駅に住む老人ユリウス(イヴァル・ヴィクランデル)を旅の道連れに引き入れ、人生の目的を見つけられず20年間大学に通い続ける変わった中年男ベニー(ダーヴィッド・ヴィ―ベリ)の車を利用し、サーカスから盗んだ象を飼うグニラ(ミア・シャーリンゲル)の家に泊めてもらい、追っ手と繰り広げる様々な事件を乗り越えて、一行はバリ島に行き着く。
ギャングの親分もアランらを追って島にやってくるが、それも振り切り、落ち着いた先のビーチで、ベニーとグニラが結ばれてエンド。



《感想》ホンワカ系かと思ったら意外に過激で、悪人は簡単に殺されてしまうし、動物も爆殺されるので、動物愛好家でなくても不快に思う人はいるだろうが、この過激なブラックユーモアを、100歳を駆け抜けた老人のホラ話と解すれば、痛快とは思わずとも許せるのではないだろうか。
「なるようにしかならない」精神で飄々と生き抜いてきたアランの波乱万丈の人生が、歴史的事件を絡めた叙事詩的なコメディで描かれ、歴史上の独裁者や冷戦の愚かさを皮肉っぽく茶化す。
それらは現在繰り広げられる珍道中とは直接関係ないのだが、並行して描かれることで、アランというキャラを豊かに肉付けし、また映画にテンポのいいリズムを与えているかと思う。
ラスト、世界を股に様々な体験をしながら恋愛に縁がなかった爺さんが、モラトリアム中年男ベニーの恋心を知り、それを後押しするシーンが印象に残る。
「二人が互いに思い合うなんて滅多にないこと」と諭す一言には、ほのぼの感と、その裏の寂しげな思いが見えて、グッと胸に迫るものがある。
よく『フォレスト・ガンプ 一期一会』と比較されるが、『フォレスト……』はIQの低い主人公が隠れた才能から人生を開いていく、いわばサクセス・ストーリーやアメリカン・ドリームの世界であって、底にある「無垢」や「反知性」の視点にやや押しつけがましさを感じるところがある。
それに対して本作は、成り行き任せの主人公が、波乱万丈な人生ながら楽観的に、前向きに生きようという姿勢が軸に見え、そんな達観したホラ話に素直に共感できる。これもお国柄か。
なお原作は、朝日新聞「天声人語」(2020年1月28日)で紹介されたヨナス・ヨナソン『窓から逃げた100歳老人』である。

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投稿者: むさじー

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