『運び屋』クリント・イーストウッド

犯罪に加担していく、放蕩老人の家族再生物語

《公開年》2018《制作国》アメリカ
《あらすじ》農園を営み、デイリリーという花の栽培に情熱を注ぐアール・ストーン(クリント・イーストウッド)は、その仕事優先の生活から、家庭を顧みず、娘アイリスの結婚式にも出席しなかったため、家族から愛想を尽かされていた。
数年後、時代はネット販売に変わり、その変化に対応できなかったアールは自身の農園を廃業し、生活にも困るようになってしまう。
ある日、孫娘ジニーの誕生パーティに行くと、そこでジニーの友人から、ドライバーを探している知り合いがいると、名刺を渡され仕事を紹介される。
名刺を頼りにメキシコ人が集まるタイヤ工場に出向き、ただ物を運ぶだけ、その中身は見ないと約束させられてトラックにバッグを積み、指示されたホテルまで運んだら、思いがけないほどの大金が手に入った。
同じ頃、麻薬捜査官のコリン・ベイツ(ブラッドリー・クーパー)は、新たに配属された部署で、上司から結果を出すように言われ、捜査を開始する。
一方のアールはトラック運転で得た金で黒い新車のトラックを買い、差し押さえられていた自宅を取り戻した。
幾度かトラック運転の仕事をするうち、バッグの中身が気になったアールは、約束を破って中身を覗き、それが麻薬であることに気付くが、見ぬふりをしてそのまま仕事を続ける。
その仕事ぶりで麻薬組織のボスであるラトンに一目置かれるようになり、大金を得たアールは、孫の学費やら家族のために金を出し、次第に家族との距離が近くなって、元妻のメアリーは彼の変化に少しずつ心を許すようになる。
麻薬取締局では、大きな仕事をしている運び屋の存在を嗅ぎつけるが、黒いトラックというだけで、まさか老人とは考えていなかった。
ある日、アールは運び屋の仕事で移動中に、立ち寄ったカフェでベイツ捜査官に出会う。互いに正体を知らない二人だったが、アールは、仕事に忙しく妻との記念日を忘れたというベイツに、自分みたいに仕事優先で家族をないがしろにするな、と諭す。
ラトンはアールの仕事ぶりを褒め称え、彼をメキシコに招待して盛大なパーティを開くが、その後、ラトンに反抗心を持った手下たちに殺害され、組織は新しいボスに変わって、アールはより大量の麻薬を運ぶことになった。
その頃、入院中だったメアリーが危篤状態に陥ったことを聞いたアールは、いつものルートから突然姿を消してメアリーの元に向かい、彼女が息を引き取るまで付き添い、葬儀で見送った。
しかしアールが無断で仕事を中断したため、組織の追跡を受け、あわや始末されそうになった時、同じようにアールを追っていた麻薬捜査官が駆け付け、ベイツによって逮捕される。
裁判でアールは、生活困窮と家族のためという弁護を遮り、全ての容疑を認めて実刑を受け、アイリスもジニーもそんな彼の気持ちを受け入れ和解した。
刑務所内の庭で花を育てるアールの姿でエンド。

《感想》メキシコの麻薬組織の運び屋をしていた老人の実話を軸に、家庭を顧みず見離された孤独な老人が、家族への罪滅ぼしをして絆を回復しようと努める物語が絡む。
麻薬犯罪に加担、家族への贖罪となると重苦しくなりがちなテーマだが、あまり踏み込み過ぎず、主人公の車好き、音楽好き、女好きという軽いキャラ設定と、ロードムービー風の映像と流れる音楽が映画を軽くしていて、ホッと温かい気持ちになる。
この明るさ・軽さは、今までの同監督にないもので、やっと枯れてきたか、という感慨があり、嬉しくなった。
中でも、運び屋のアールと捜査官ベイツが、互いに正体を知らないまま朝カフェで出会い、アールが諭し、二人して語り合うシーンがいい。スリリングな中に、仕事にハマり過ぎた男同士の哀愁が漂っていた。
監督・主演作『グラン・トリノ』から10年、偏屈老人は少し丸くなって、顔のシワが深くなり、足元がおぼつかなくなったが、老いを素直に受け入れて隠さず、その飄々として気骨ある姿には、達観した潔さが見える。
88歳になった監督の実像とダブるが、いつまでも超現役というのが凄い。

※他作品には、右の「タイトル50音索引」「年代別分類」からお入りください。

投稿者: むさじー

名画座通いの昔からネット配信の現代まで、温故知新、共感第一、ジャンル無節操をモットーに選んでいます。 何度も、観る度に感動する映画は大切ですが、二度と観たくない衝撃に出会うのも楽しみです。

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