すれ違いの10年、抑えた思いが涙を誘う
《公開年》1996《制作国》香港
《あらすじ》86年春、天津から香港に来たシウクワン(レオン・ライ)の夢はこの地で成功して金を貯め、故郷に残してきた恋人のシャオティン(クリスティ・ヤン)を呼び寄せ結婚することだった。
叔母の家に世話になり働くが、英語はもちろん広東語すら理解できなかった彼が次第に香港の暮らしに馴れてきたある日、マクドナルドで働くレイキウ(マギー・チャン)と出会い、英会話学校を紹介される。
彼女も金儲けのため、アルバイトの掛け持ちや投資に明け暮れていて、二人の交流が始まる。
レイキウは、「大陸からの出稼ぎが多い香港だから、彼らが好きなテレサ・テンは売れるはず」とカセットの露店を出すが、誰もが大陸出身を知られたくないため売れず、商売は大失敗をする。
実はレイキウも香港人ではなく広州出身で、似たような身の上の二人はある夜、感情が高ぶって離れ難くなり、一夜を共にする。
その後もホテルの一室で会い続けるが、あくまで異性の友人として、と意識しつつも、それを超える感情を抱きつつあった。
翌年の株の暴落でレイキウは貯金をほとんど失い、収入のいいマッサージ嬢の仕事を始める。
シウクワンは、故郷の恋人の誕生日プレゼントを見立ててもらおうとレイキウを誘い、彼女にも同じ物をプレゼントするが、その無神経さに腹を立てたレイキウは彼のもとを去ってしまう。
90年春、店の副料理長になったシウクワンは、シャオティンを香港に呼び寄せて結婚式を挙げ、披露宴でレイキウに再会するが、レイキウはマッサージの客だったヤクザのボス、バウ(エリック・ツァン)の愛人になっていた。
彼女は故郷の母のために家を建てる夢を持っていて、それを実現したが、完成を待たずに母は亡くなったという。
交流が復活した二人はある日、街頭でテレサ・テンを見かけシウクワンが上着の背中にサインしてもらう。その別れ際、背中のサインを見ていたレイキウの抑えていた思いが燃え上がり、二人は思い出のホテルで再び結ばれる。
しかし二人に訪れたのは後悔の念だけだった。シウクワンは妻に打ち明けると言い、レイキウもバウと別れると言う。
だが折しもバウが事件に巻き込まれてしまい、香港を脱出しようとするバウに会いに行ったレイキウは、バウを見捨てられず一緒に香港を離れ、台湾に向かってしまう。
93年、シウクワンは妻に別れを告げ、一人ニューヨークに向かった。
一方、レイキウとバウも安息の地を求めてニューヨークに来た。だが路上の些細なイザコザからバウが殺されてしまう。
不法滞在で強制送還されようとしたレイキウだったが、護送の車中からシウクワンの姿を見つけ、車から逃げ出して追うも見失ってしまう。
95年5月、テレサ・テン急死のニュースが流れ、街頭のテレビを見つめるレイキウだったが、ふと横を見るとそこにシウクワンの姿があり、驚き微笑む二人。最初の出会いから10年が過ぎていた。
《感想》優柔不断な無神経男と、自分に正直で一途な女が、運命に翻弄され出会いと別れを繰り返して10年。この出来過ぎたすれ違いと腐れ縁のドラマは、偶然の再会でエンディングを迎える。正直ホッとした。
世間的には浮気であり不倫なのだが、そのピュアな心根は純愛のようでもある。だから、他人を傷つけてしまうどうしようもない二人に、思わず肩入れしてしまうのかも知れない。
二人の人生の節目にテレサ・テンが登場する。
最初は、売れるはずのテレサのカセット販売に失敗し、慰めから起きた感情が男女の関係に発展してしまう。
二度目は、友達関係に戻ったのに、背中のテレサのサインを見るうち、昔の思いが再燃して、再び友情を超えた関係になってしまう。
最後は、街頭のテレビでテレサの死を知ったとき、横を見ると偶然にも運命の人がいて、見つめ合い微笑む。
テレサの死は映画製作の前年なので、追悼の意味もあったと思うが、「アジアの歌姫」としての彼女は、中国語圏の人にとって流行歌手以上の特別な存在だったのかも知れない。
そしてエリック・ツァン演じるヤクザがいい。
「俺には女がいっぱいいる。俺が死んだらほかの男を探せ」。
男気と真の優しさを持ったその男には、背中に女のために彫ったミッキーマウスの刺青があって、死んだ男のそれを見た女は、ふと笑みを浮かべ涙する。このシーンには様々な思いが込められていてグッときた。
そんな秘めた思い、抑えた感情の揺れを微妙な表情の動きで表現したマギー・チャンが素晴らしい。
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