『暗殺のオペラ』ベルナルド・ベルトルッチ

裏切り者か英雄か、真相を追って迷宮の世界へ

暗殺のオペラ

《公開年》1969《制作国》イタリア
《あらすじ》1960年代半ば、北イタリアのタラという駅に列車が停まり、青年アトス・マニャーニ(ジュリオ・ブロージ)が降りる。
この小さな町には彼と同じ名を持つ父(ジュリオ・ブロージ二役)の記念館や胸像があり、父が反ファシストの闘士として伝説の存在になっていた。
その父はヴェルディのオペラの上演中に何者かによって射殺され、彼は父のかつての愛人ドライファ(アリダ・ヴァリ)にこの町に呼び寄せられていた。
彼女は父の死の真相を探って欲しいとアトスに言う。
暗殺された死体にはファシストからの脅迫状が残されていたという芝居がかった話が信じられないアトスだったが、理由もなく馬小屋に閉じ込められたり、突然見知らぬ男に襲われたりして、彼を町から追い出そうとする気配を感じる。
そしてドライファの話から、父の最大の敵であった大地主や、反ファシズム運動の仲間である映画館主のコスタ、教師ラゾーリ、ガイバッツィという3人組に出会う。
3人の話によれば、タラの町の劇場にムッソリーニが来るという情報を掴んだ父を含む4人組が、ムッソリーニ暗殺計画を立てたが、直前の何者かの密告で失敗し、逆に父アトスがオペラ上演中に暗殺されたという。
しかしファシストだった大地主は犯行を否定し、出来過ぎた偶然の一致にひっかかったアトスは更に3人を追及する。
すると驚愕の事実が判明する。
暗殺計画を密告したのは父アトスで、3人の同志に自らを処刑させながら、それをファシストによる暗殺と見せかけ、ファシズムへの憎悪をかきたてるための演出で、そのプランを立てたのが父アトスだった。
全てをぶちまけたい衝動にかられたアトスだったが、父アトスをしのぶ集会に呼ばれたスピーチで、その真相に触れることはなかった。集まった町の人々は全ての事実を知っていながら、それを語ることもなく生きてきたのだった。
彼は町を去るため駅に来たものの、列車が遅れるというアナウンスがあり、線路は草でおおわれ列車が来る当てもなく、時が止まり忘れ去られたような町に、彼は戸惑いながら佇むのであった。



《感想》ベルトルッチ29歳、才気あふれる演出が光っている。
原作はボルヘスの掌編『裏切り者と英雄のテーマ』で、反ファシズムの思想を民衆に浸透させるため、自ら裏切り者になり、自らの命を犠牲にした男の志を、人々は英雄として称えたという話を基に映像化している。
それにしても謎が多い。
1)町の人は皆、英雄だった父アトスの裏の真実を知っていたのに、愛人ドライファが真実解明のために息子を呼んだのは何故か。愛した父の面影を宿す息子を側に置きたかったから?
2)回想シーンで、30年の隔たりがあるはずなのに、父の仲間や愛人が今と変わらない姿で現れるのは何故か。英雄伝説を守るため、ずっと時が止まっている時間の迷宮のような世界だから?
3)冒頭に降りた駅は綺麗だったのに、ラストシーンでは線路が雑草に埋め尽くされているのは何故か。列車は来ない、帰れないということに重ねて、伝説と幻想に生きる人々の呪縛に捕らえられ、現実世界に帰れなくなったから?
混沌としているが展開は面白く、観ている方も迷宮に入りそうになる。
アリダ・ヴァリの存在感は圧倒的。撮影ヴィットリオ・ストラーロの色彩、構図ともに美しい映像に魅せられる。

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投稿者: むさじー

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