愛の“真贋”を巡って振り回される鑑定士の絶望と希望
《公開年》2013《制作国》イタリア
《あらすじ》著名な美術品鑑定士でオークション主催者のヴァージル(ジェフリー・ラッシュ)は人間嫌いで、唯一の生きがいは蒐集した女性肖像画に囲まれた部屋で過ごすことだった。
その美術品は、元画家の友人ビリー(ドナルド・サザーランド)に不正落札の片棒を担がせ手に入れている。
ある日、若い女性から亡き両親のコレクションを査定して欲しいという依頼がくる。しかしその屋敷を訪ねても、その女性は電話を通して話すだけで姿を見せない。
怒って去ろうとするが、そこで古い歯車の部品を拾って持ち帰り、それを若い機械修理屋ロバート(ジム・スタージェス)に見せ、出した結論は18世紀の人形作家によるオートマタ(機械人形)らしいということだった。
しかし、いつになっても姿を見せない依頼人にヴァージルはいら立ち仕事を断ろうとするが、話の中の依頼人クレア(シルヴィア・フークス)は広場恐怖症で、対人にも不安を感じる精神状態にあることを知り、孤児だった自らの生い立ちとクレアの不幸な境遇が重なり、ヴァージルの気持ちに変化が生じる。
好奇心を抑えられなくなったヴァージルは、部屋の陰に隠れてクレアの若く美しい姿を目にし、鑑定のため屋敷に通ううち、恋心を抱くようになる。
そして屋敷で拾い集めた古い機械の部品を、復元のためロバートに届けながら恋の手ほどきを受けるのだった。
やがて想いがクレアに通じ、二人は一夜を共にする関係になる。更に恋心は募り、ロバートがクレアに横恋慕しているのではと嫉妬したり、クレアが消えた動揺から仕事で失態を演じたり……。
ある夜、ヴァージルはクレアの屋敷前で暴漢に襲われて怪我を負い、クレアは広場恐怖症を乗り越え彼を救う。この出来事をきっかけに二人は婚約し、ロバートたちとの交遊を楽しむまでになった。
クレアは両親の思い出の品を競売に掛けるのをやめたいと言い、それに賛同するヴァージル。そしてクレアを屋敷から彼の自宅に住まわせ、秘密のコレクション部屋へと招き入れる。次のオークションを最後の仕事にし、結婚と共に引退するとヴァージルは言う。
引退オークションは盛大に行われ、自宅に帰るとクレアは外出中らしく、ビリーからもらった絵を手にコレクション部屋に入ると、肖像画は全て持ち去られ、部屋は白い壁と復元されたオートマタのみになっていた。
ビリー、クレア(偽名)、ロバートとその恋人、みな詐欺仲間だった。
廃人のようになったヴァージルは、クレアとの思い出の日々を回想し、クレアが暮らしたいと言っていたプラハのカフェ「ナイト&デイ」を訪ねる。巨大な歯車の時計が時を刻む中、一人で奥の席に座り、彼女を待ち続けるのだった。
《感想》贋作を見抜くことを信条とする鑑定士が、偽りの愛を見抜けず崩壊していく。詐欺の被害者なのだが、それ以前に自ら詐欺まがいの手法で私腹を肥やしていたのだから、自業自得と言える。
その鑑定士を陥れた首謀者が仕事仲間である元画家の友人で、日頃から馬鹿にされていた彼にとっては復讐劇であり、偽りの友情だった。
監督自身はこの結末をハッピーエンドと言っているようだが、そう素直には解釈できない。
確かに人間嫌いで孤独な男が、他人への愛を知り心の豊かさを得たことは事実だが、その幸せも富も全て失ってしまうエンディングをハッピーと言えるのか。
ラスト近く、復元されたオートマタが言う。「いかなる贋作の中にも必ず本物が潜む。会えなくて寂しいよ」。このセリフが鍵のように思える。
茫然自失の状態から、介護施設で車椅子の姿になり、執事の訪問で手紙を受け取り、元気を取り戻して(?)クレアが話していたカフェに出向き、クレアを待っている。クレアの「たとえ何が起きようと、あなたを愛してる」という言葉を信じて……。
クレアと再会出来るのか不明だが、涙ながらに誓い合った似た者同士の二人にもし本物の愛が潜んでいたなら、それを信じて待ち続ける余生というのも、あながち不幸とは言い切れないのではないか。
それにしても、観客を見事に欺く伏線の張り方と、混乱を誘うエンディングで、謎解きと深読みの面白さが同時に味わえる作品になっている。
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