『寝ても覚めても』濱口竜介 2018

夢と現実の間で揺れる恋心を自然体で描く

《あらすじ》大阪に住む朝子(唐田えりか)は牛腸茂雄写真展会場で変な男「バク」に出会う。初対面なのに、名を聞いていきなりキスをしてきた男は鳥居麦(東出昌大)といい、親戚の岡崎家に居候していて、正体不明なまま二人の交際が始まる。
岡崎の家に朝子たちが集まり花火をした夜、麦が家を出たまま戻らず朝子は心配したが、家族はよくあることと言い、だがその半年後、麦は出て行ったまま帰って来なかった。
2年後、東京の喫茶店で働いていた朝子は、向かいのビルに勤める酒造会社社員の丸子亮平(東出の二役)に出会い驚く。容姿が麦と瓜二つだった。
ある晩、亮平は写真展会場で、朝子とそのルームメイトで女優のマヤ(山下リオ)に出会い、会社の後輩の串橋(瀬戸康史)を加えた4人は打ち解けて仲良くなる。朝子に好意を寄せる亮平だったが、朝子はかつての恋人に似過ぎている亮平を頑なに拒否した。
朝子に会いたい亮平は、マヤの芝居公演での再会を期待して出かけるが、開演前に大地震が起きて公演は中止。亮平は歩いて会社に向かい、偶然歩いて来た朝子に出会って二人は抱き合う。
5年後、亮平と朝子は一緒に暮らし、二人は東北の被災地のボランティア活動をしていた。
そしてある日、朝子は麦がモデル・俳優として有名になったことを知る。
そんな折、亮平は大阪転勤することになり、朝子に結婚を申し込む。朝子は初めて亮平に麦の話をするが、亮平は自分によく似た麦の存在を知っていた。
そして偶然、朝子は街中で麦がいると騒ぐ声を聞き、車で去る麦に手を振り、心の中で別れを告げた。
しかし、結婚した串橋・マヤ夫婦が開いた亮平・朝子の送別会のレストランに、突然麦が現れ、強引に朝子を連れ去ろうとし、朝子はそれに従った。
朝子を乗せた麦の車は麦の故郷・北海道に向かう。途中、朝子の携帯にマヤから戻るよう懇願されるが拒否し、朝子は携帯を捨ててしまう。
翌朝、仙台近くの防潮堤の側で目覚めた朝子は、亮平にした許されない仕打ちと、彼と過ごした時間の重みに気付き後悔していて、それを麦に伝えた。
麦はその話に素直に納得して朝子を残して去り、朝子は仮設住宅に住む知人から金を借りて大阪に戻る。
朝子は大阪の亮平の引っ越し先に行くが、何でも受け入れてきた亮平が初めて朝子を拒絶し、そんな亮平の気持ちが理解できる朝子は「謝り切れないから謝らない」と言い放ち、亮平は朝子を「もう信じられない」と言い返す。
二人して2階のベランダに立ち、目前に流れる川を亮平は「汚い」と言い、朝子は「キレイ」と言う。

《感想》瓜二つの対照的な男。自由奔放な麦と実直な亮平を比べると、夢と現実、自己愛と他者愛、本能と理性などいくつかのキーワードが浮かぶ。
その間で揺れる朝子の行動は、思慮に欠けあまりに衝動的で、感情のまま走ってその結果、人を傷つけてしまう。
そんな朝子の心を照らすように登場するのが、牛腸茂雄の双子の写真と、東日本大震災の影響である。
前者は「似ている」「そっくりな」二人の間を、「好き」という感情で彷徨う朝子自身の不安や迷いを投影している。
後者は、仙台近くの震災の海を見て、夢から覚めて現実に引き戻され、亮平の元に帰る契機を作っている。
ラスト、亮平は初めて自分に正直に朝子を拒絶するが、二人の心の奥には「何か分かり合えたかのような」感情が湧いたように見える。
本音をさらけ出して初めて築ける人間関係もある。「謝らない」女と、「信じられない」男はまた新たに歩んでいけるのでは……。
麦の不可解な行動や朝子の揺れには共感できないし、亮平に同情する気も起こらない。しかし恋心とは、単純に割り切れないもので、夢と現実の狭間を右往左往するものではないだろうか。
映画は、誰かに感情移入することを押し付けず、ごく自然体で描かれ、それが妙に生々しく、新鮮に映った。

※他作品には、右の「タイトル50音索引」「年代別分類」からお入りください。

投稿者: むさじー

名画座通いの昔からネット配信の現代まで、温故知新、共感第一、ジャンル無節操をモットーに選んでいます。 何度も、観る度に感動する映画は大切ですが、二度と観たくない衝撃に出会うのも楽しみです。

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