解釈多様の復讐劇、その裏に自己変革と愛のメッセージ
《公開年》2016《制作国》アメリカ
《あらすじ》現在、過去、小説(の映像化)を交差させて展開する。
〔現在〕ロサンゼルスのアートギャラリーのオーナーであるスーザン(エイミー・アダムス)は、夫のハットン(アーミー・ハマー)と共に裕福に暮らしているが、夫婦の間に距離が生まれ、心は満たされていなかった。
そんな彼女の元に、永らく音信のなかった元夫のエドワード(ジェイク・ギレンホール)から小包が届き、中には彼の書いた小説『ノクターナル・アニマルズ(夜の獣たち)』の校正刷りと、「君との別れが着想になった。感想が欲しい」旨の手紙が添えられていた。
〔小説〕トニー(J・ギレンホール二役)が妻ローラと娘インディアを乗せて夜のハイウェイを走っていると、2台の車から執拗な嫌がらせを受ける。
トニーの車はパンクし、三人の男たちは家族を車から降ろして、トニーを殴り倒して妻と娘を無理矢理車に押し込んで連れ去る。
〔現在〕ここまで読んだスーザンは本を閉じ、夫ハットンに電話を掛けるが、若い女と一緒にいることが分かり、裏切りを確信して、小説に戻る。
〔小説〕荒野に置き去りにされたトニーは歩き続けて民家に助けを求め、駆け付けたボビー警部補(マイケル・シャノン)と共に事件の足取りを辿ると、ごみ処理場で妻と娘の全裸遺体を見つける。
〔過去〕ここでスーザンは元夫エドワードとの思い出を回想する。
学生時代のスーザンは、兄の友人として幼馴染だったエドワードとニューヨークで偶然再会し、交際へと発展する。
やがて二人が望んだ結婚を、スーザンの母は、作家志望のエドワードに経済力や将来性は見込めないと猛反対するが、それを乗り越え二人は結婚する。
〔現在〕スーザンはエドモンドに、小説を称賛し、会いたい旨のメールを送る。
〔小説〕別の強盗事件で妻娘殺害に関与した一味のルーが逮捕され、続いて主犯のレイが逮捕されるが、警察の追及にも二人はしらを切る。
〔過去〕エドワードの小説を読んだスーザンは、私小説から抜けられない、彼の精神的な弱さを指摘するが、アドバイスすれば口論になり、次第に二人はすれ違っていく。
そしてスーザンは、経済力も将来性もあるハットンに出会って惹かれ、エドワードとの間に出来た子を堕ろし、エドワードの元を去る。
〔小説〕逮捕された二人は証拠不十分で釈放されることになるが、肺がんで余命短いボビーはトニーと共に、ケリを付けようと二人を小屋に閉じ込め自白を迫り、逃げるルーをボビーが、レイをトニーが射殺する。
しかしレイの反撃で目をやられたトニーは、落とした銃に誤って倒れ、自爆して死んでしまう。
〔現在〕会う約束の日、スーザンはドレスアップして、化粧は地味にして、何かを期待するかのように高級レストランで一人待つが、閉店が迫って客がはけても待ち人は現れず、エンド。
《感想》小説(虚構)と現実の二重構造という巧妙な作りと、現代アートを背景にした斬新な美術セットや衣装を用意し、圧倒的な映像世界を作り上げている。
「REVENGE」の文字が示すように、メインは復讐劇で、小説と現実を交互に描くことによって、それぞれの復讐劇が重なっていく。
「小説」では受けた暴力の痛みを暴力で返すが、「現実」では裏切りによって生まれた憎しみを、傷つけた罪の意識を持たない元妻の“期待を裏切る”ことで復讐している。
しかし単純に復讐劇だけとは言えない。
芸術を志す夫と、それを支える妻との間に溝が出来て、妻が美術への夢と結婚生活を捨てたのは、妻を育んだ保守的・差別主義的家庭環境のゆえ。そして今、実利的経営者に納まっているのはその呪縛から抜け出せないため。
元夫は過去の矮小な自分を変え、小説家として夢を実現した自分を示して、裕福だが夢はなく不幸な元妻に対して「気付け、自身の愚かさを」と伝え、裏で「脱却しろ、夢を捨てるな」という自己変革と愛のメッセージを込めているように思える。
古い因習にとらわれない現代アートを舞台にしたのも、その故と思う。
監督はファッション界の重鎮で、映画は二作目だが、小説と現実の人物の重ね方が巧妙で、何かと深読みを誘う作品である。
※他作品には、右の「タイトル50音索引」「年代別分類」からお入りください。