社会の暗部と人間の欲望を露悪的な笑いに包んだ愛憎劇
《あらすじ》田舎町の農家の一人息子、宍戸岩男(安田顕)はパチンコ店に勤める42歳の独身男。認知症の父・源造(品川徹)、過保護な母・ツル(木野花)と共に暮らしていた。
岩男は職場の同僚でシングルマザーの吉岡愛子(河井青葉)に想いを寄せていてアタックするが、男性関係の多い愛子から「本気だと困る」とフラれてしまう。
そんな一人息子を溺愛するツルとも衝突し、家を飛び出した岩男は貯金をはたいて、フィリピンに出向くお見合いツアーに参加する。
そこでまだ18歳の貧しいフィリピン女性アイリーン(ナッツ・シトイ)を選んで、実家への仕送りを条件に国際結婚を決め、二人して帰国する。
ところが、岩男の旅行中に父・源造が急死していて、岩男がアイリーンを連れて帰宅したのは源造の葬儀の最中だった。
母・ツルはアイリーンを嫁と認めず追い返そうとし、そもそも愛のない結婚だったので、アイリーンは岩男を拒絶し続けるというホテル暮らしの奇妙な新婚生活が始まる。
そんなある日、フィリピーナの斡旋業をするヤクザ風の塩崎(伊勢谷友介)が現れ、ツルと組んでアイリーンを売り飛ばそうと強引に誘拐するが、車で追いかけた岩男は猟銃で塩崎を射殺してしまう。
岩男とアイリーンは塩崎の死体を山中に埋め、血まみれで戻った二人はその興奮から弾けて、その夜初めて結ばれる。
その後、岩男は塩崎の仲間のヤクザに目を付けられ、車や家に落書きされるなど執拗な嫌がらせを受けて、精神的に追い詰められた岩男は愛子との不倫に走り、山中の木々にナイフで文字を刻みつける行動に出て、山の斜面から足を滑らせ転落してしまう。
アイリーンは行方不明の岩男を探して山中に入り、木に刻まれた「アイリーン」の文字と雪に埋もれた岩男の遺体を発見する。
アイリーンに連れられて山に入ったツルは、変わり果てた我が子を見て、発狂したかのように叫び失語症になってしまうが、自分を山に捨てるようアイリーンに要求する。
アイリーンはその要求を拒絶しながらも、ツルを背負って山中を歩き、そこで岩男との子を宿していることを打ち明け、それを聞いたツルは初めてアイリーンに微笑みかけて静かに息を引き取る。
一人残されたアイリーンは雪道を歩きながら、岩男の「愛してる」の声が聞こえたようで、空を見上げてエンド。
《感想》フィリピンまで嫁探しに行った中年男と、家族の生活のために異国に嫁ごうとするまだ幼さの残るアイリーンが出会う。
そこに愛は不在、でも少しずつ愛が芽生え、大きな事件に遭遇してやっと結ばれる。
やがて、母親を交えた三人の心は微妙にすれ違ったまま不幸な結末を迎えるが、アイリーンに向ける二人の眼差しは温かなものに変わっていた。
少子高齢化・過疎化の中の嫁と後継者不足、経済格差が生んだ金銭絡みの国際結婚、愛と性と結婚に潜む本音や矛盾、それらをテーマに毒のある強烈キャラで描き、その剥き出しでストレートな表現には目をそむけたくもなるが、ここまでさらけ出さないと見えてこない人間の業とか深い感情があるような気がして、少し切なくもある。
そして「愛って何?」という素朴な疑問に行き着く。
テーマは重く、痛い・深い・エグい内容で、更に卑猥で露悪的な描写が続くため、登場人物に共感は出来ないものの、観終えた後味は“純愛もの”のようで決して悪くない。
加えて役者の頑張りも印象的で、特に、激しくて優しい憤怒の老母役を演じた木野花の、いつもと違う凄味に圧倒された。
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