『1987、ある闘いの真実』チャン・ジュナン

史実の持つ迫力と、民主化への熱気に圧倒される

《公開年》2018《制作国》韓国
《あらすじ》1987年1月、チョン・ドファン大統領による軍事政権下にあった韓国、南営洞警察の一室でソウル大学生パク・ジョンチョルが死亡する。
脱北者で警察の対共所長パク・チョウォン(キム・ユンソク)は直ちに火葬するよう命じるが、死因に疑問を持ったソウル地検公安部長チェ・ファン(ハ・ジョンウ)は火葬同意書へのサインを拒否し、遺体の解剖を命じる。
警察は会見を開き拷問の疑惑を否定するが、司法解剖の結果は「拷問による窒息死」と判断され、その事実を闇に葬ろうと画策されるが、チェ検事は解剖結果資料を秘かに東亜日報のサンサム記者に提供し、その事実は明るみに出てしまう。
パク所長ら当局は世間の批判をかわすため、拷問の実行者ではないチョン・ハンギョン刑事ら2名を逮捕し、刑を軽くする約束で収監する。
収監された刑務所には、元新聞記者で民主化運動家のイ・ブヨンが収監されていて、内通者の看守ハン・ビョンヨン(ユ・へジン)と協力しながら、刑務所内の情報をまとめて、民主化活動家キム・ジョンナム(ソル・ギョング)に秘密裡に流していた。
ビョンヨンの姪のヨニ(キム・テリ)は叔父の身の危険を心配しながら、その橋渡しを手伝っていて、ある日ヨニは、学生デモと機動隊のせめぎ合いに巻き込まれ、大学生活動家のイ・ハニョル(カン・ドンウォン)に助けられる。そして、活動には批判的ながら淡い恋心を抱く。
一方、パク所長はジョンナムを北朝鮮のスパイに祭り上げ逮捕しようと、わざと政治犯を釈放して泳がせる作戦に出る。
その頃、獄中のイ・ブヨンは拷問事件の重要情報を入手していて、ビョンヨンを通じてジョンナムに渡そうとするが、ビョンヨンはジョンナムに接触する前に逮捕され過酷な拷問を受けてしまう。
叔父が所持していたその情報を家で見つけたヨニは、ハニョルの助けを得て教会に潜伏していたジョンナムに渡し、更に民主化運動の大物であるキム・スンワン神父に託される。
やがて警察の手は教会にまで及び、ジョンナムは危うく捕まりそうになるが、辛くも逃げ切る。
一方、情報を入手したスンワン神父はミサの場で、拷問致死事件関係者の名前と、隠蔽工作など事件の真相を明らかにし、それら全てが報道されてパク所長ら関係者全員が逮捕された。
この事件解明と共に民主化運動は更に加熱するが、その矢先、デモに参加していたハニョルが機動隊の催涙弾を受けて重体に陥る。
それを新聞で知ったヨニは思わず街に飛び出し、民主化運動の市民の輪に自ら加わり、バスの上から拳を振り上げる姿でエンド。

《感想》軍事政権による独裁・恐怖政治下にあって、真実を探ろうとする検事、医師、新聞記者らの正義感溢れる行動や、民主化運動を推進する活動家や学生の熱気と、市井の人々の勇気ある行動の輪が広がっていく中で、特定の主人公を持たないこの群像劇は展開していく。
前年公開の『タクシー運転手 約束は海を超えて』の広州事件から7年後の韓国が本作の舞台だが、史実を基にしながら、適度にフィクションを盛り込んで、スピーディで迫力ある社会派エンタテイメントになっているところが良く似ている。
『タクシー運転手』では、カーチェイスのシーンを加えたりして、やや“エンタメ重視”の感があったが、本作はドキュメンタリー寄りの描き方に、ノワールとサスペンスの要素を盛り込んで、史実の持つ迫力をより大切にという姿勢が見える。
しかし観終わって、今一つカタルシスが押し寄せてこないのは、史実寄りの群像劇ゆえに思い入れしにくいから、ということか。
もし学生二人の悲恋を軸に据えていたら、別のドラマが生まれていたような気がして……そちらも観たいと思う。
また、パク対共所長が脱北した理由を「家族が死んでいくのをただ見ているしかない地獄」と語るが、立場の如何を問わず、家族の存在を丁寧に描いていることがいかにも韓国らしく、物語に深みを与えている。
そして自国の負の歴史を、美化し過ぎずに、しかもこれだけの規模とキャストで描き切れる韓国映画の実力は凄いと思う。

※他作品には、右の「タイトル50音索引」「年代別分類」からお入りください。

投稿者: むさじー

名画座通いの昔からネット配信の現代まで、温故知新、共感第一、ジャンル無節操をモットーに選んでいます。 何度も、観る度に感動する映画は大切ですが、二度と観たくない衝撃に出会うのも楽しみです。

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