自分に正直に生きよう、ホッコリさせる老人恋話
《公開年》2017《制作国》イギリス
《あらすじ》イギリスのサリー州、警察本部長を勤め上げた夫マイクがナイト爵を授与され、妻のサンドラ(イメルダ・スタウントン)は自身にも「レディ」の称号が与えられるため有頂天だった。
ところがそのパーティの最中、サンドラの友達と夫との不倫が発覚し、逆上したサンドラは荷物をまとめ、10年も疎遠だった姉ビフ(セリア・イムリー)の元に転がり込む。
ビフは狭い団地の一人住まいながら趣味があり、仲間がいて、自由気ままというサンドラとは対極にある暮らし。そこには男友達のチャーリー(ティモシー・スポール)が出入りしていて、突然顔を合わせ動揺するが、サンドラは愚痴をこぼしながら居候を続ける。
ある日サンドラはビフから、自身が参加している地域のダンス教室に誘われ、そこで再びチャーリーに会うが、チャーリーには認知症で施設入所している妻がいて、家を売り払って船上生活をし、妻を見舞う日々にあるが、妻には全く理解されず、行き詰まりを感じていた。
通い始めは社交ベタから戸惑っていたサンドラだったが、幼少期の“踊る喜び”が蘇り、次第にダンスにハマっていき、そのダンスが動画サイトで評判になって、ローマで開かれるイベントへの出演依頼が舞い込んだため一層ダンスに熱が入る。
一方、ビフの計らいでサンドラとチャーリーの仲は近づくが、死んだと聞かされていたチャーリーの妻が存命とサンドラが知り、距離が生まれてしまう。
そんな時、娘から、マイクと不倫相手が結婚することを知る。
また、ビフの健康に異変が生じていて、末期の肺がんで、抗がん剤治療は受けず自然に任せるという告白を聞く。
そして一行はローマに向かい、その舞台は大成功を収めるが、その翌朝、ビフはホテルの自室で帰らぬ人になってしまう。
葬式で不倫相手と離婚したという元夫マイクに会い、マイクから反省の言葉と復縁の申し出があって、サンドラは動揺する。
というのは、サンドラとしては当初離婚には至らずヨリを戻すと思っていたのが、熟年離婚になってしまい今さら、の感があったから。
それでも一旦はそれを受け入れ家に戻るが、時を同じくチャーリーから、妻の死亡と念願の英仏海峡横断の船出をする旨の便りが届く。
サンドラの誕生日パーティの最中、思い立ったサンドラは鞄一つでタクシーに乗り、運河を発つチャーリーの船を走って追いかけ、船に乗るべく河岸からジャンプしてエンド。
《感想》夫が爵位を受け、自分はセレブ妻の仲間入りをしようとするその矢先、夫の不倫が発覚して人生が思わぬ方向に転がってしまう。
着いた先には、その日暮らしを楽しみ、人生を謳歌する愉快な仲間がいたが、それぞれ訳ありの事情を抱えていた。配偶者の死や介護、自らの病、そして熟年離婚……。
一人では寂しい、誰と生きるか。残された人生に求めるのは安定か冒険か、迷う。
ラスト、夫の元を去るサンドラは「あなたの裏切りは最低。でも私こそ、35年間自分を裏切っていた」と述懐する。
大人たる者の臆病さは、世間の良識に我が身を置く安心感に依るところが大きいが、本作のラストは、全てを吹っ切って自分に正直に生きる道を選び、それは年齢に関係ないとエールを送っている。
老人ラブストーリーとしてはややベタ、展開にご都合主義の唐突さが垣間見え、シナリオの粗さは否めないところだが、ベテラン役者の滋味あふれるやり取りを見ていると、歳を取るのも悪くない、そう思えてくる。
年輪を感じさせるシニカルなジョークにニンマリし、ラスト、冒険に旅立つ熟女のジャンプに喝采を送っていた。
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