肉体の躍動美を求め、超人的世界に挑む情熱に感動する
《公開年》2008《制作国》タイ
《あらすじ》十数年前のタイでは、現地マフィアと日本ヤクザの抗争が激化していたが、そんな中で、マフィアのボス・ナンバー8の愛人であるジン(アマラー・シリポン)は日本ヤクザの幹部マサシ(阿部寛)と愛し合うようになっていた。
マフィアに命を狙われるマサシを心配したジンは、マサシを日本に帰国させ、自身もマフィアの世界から足を洗うが、この時、ジンはマサシとの子を宿していた。
ジンはやがて女の子を出産し「ゼン」と名付けるが、生まれつき脳に発達障害を抱えていてジンは将来を案じた。しかし、ゼンには様々な格闘術を一瞬で習得できる能力と身体能力が備わっていて、ムエタイとカンフー映画の環境で成長していった。
そして十数年、成長したゼン(ジージャー・ヤーニン)だったが、母ジンが白血病に倒れ、高額な治療費を稼ぐため、幼馴染のムン(タポン・ポップワンディ)と共に持ち前の動体視力と瞬発力を生かして路上パフォーマンスを始める。
それでも金が足りず、次に始めたのが、かつて母がマフィア時代に金を貸していた相手からの借金の取り立てだったが、マフィアに知られて追われ、脅迫されたジンは日本のマサシに助けを求める。
マフィアはムンを拉致し、ジンとゼンを誘き出そうと画策するが、ゼンはムンを助け出すためマフィアのアジトに乗り込み、その格闘能力で次々と一味を倒していく。
そしてマサシも日本から駆け付け、ジンとゼンのためにマフィアに立ち向かうが、激しい死闘の末に、マサシを庇ったジンは殺されマサシも重傷を負う。
怒りが頂点に達したゼンは、ナンバー8との対決に挑み、ビルの屋上に追い詰めて遂に倒す。
数日後、ジンを失ったゼンとマサシは、哀しみを抱えながら、互いを気遣うように海沿いを歩いてエンド。
《感想》ストーリーに目新しさや秀でたものはないが、アクションシーン、とりわけエンドロールに流れるメイキング映像(NGシーン)が凄い。
スタント、CG、ワイヤー、すべてNOというアクションシーンはケガ人続出で、ヒロインまでケガを負い、全員が命がけで挑んでいる。
鳥肌が立つほど本気度が窺え、その映画に傾ける情熱は尋常でない。
特に凄いのが、4階建てビルの窓上数十センチに張り出した軒を足場にしたアクションで、落ちたら大ケガ、間違えたら命に関わる激しさである。
当然ながら何らかの映画的トリックを想像していたが、突き付けられたのが先のメイキング映像で、これには度肝を抜かれた。
初めて『燃えよ、ドラゴン』を観たときのような衝撃と感動が蘇った。
近年はより激しく華麗なアクションが求められ、ワイヤーやCGが多用されるようになったが、ここに見たのは生身の人間の躍動美である。
そして、制作者のアクション映画に賭ける情熱に感動すると共に、忘れかけていた“超人的”な世界に遊ぶ映画の魅力を垣間見られた一作だった。
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