『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』クレイグ・ギレスピー

真実の見えない“実話”をシニカルな目でコミカルに描く

《公開年》2017《制作国》アメリカ
《あらすじ》フィギュアスケートで二度の五輪出場を果たしながら、スキャンダルまみれだったトーニャ・ハーディングの半生を描く。
40年前のオレゴン州。4歳のトーニャは貧しく粗野な母ラヴォナ(アリソン・ジャネイ)に連れられ、ダイアンが指導するスケート教室に入って才能が開花し、僅か4歳で優勝してしまう。
めきめき上達するトーニャに、ラヴォナは稼いだ金をつぎ込み、躾と称する暴力的な教育法で育てるが、ラヴォナと不仲になった父は、泣きつくトーニャを置いて家を出て行った。
15歳になったトーニャ(マーゴット・ロビー)は高校生のジェフ(セバスチャン・スタン)と出会い交際を始めるが、彼が優しかったのは一時で、次第に暴力を振るうようになり、ケンカの後のジェフの謝罪と優しさに引きずられて別れられない、泥沼の関係が続く。
後のスケート大会では、ミスなく演技を終えるも高得点が出ず、審判団に詰め寄ると、芸術面の重要性と過大な自己評価を指摘されてしまう。
ジェフと結婚して迎えた1991年全米選手権で、トーニャは念願のトリプルアクセルを成功させて優勝し、一躍注目選手になる。
その後も主要大会で優秀な結果を残すが、相変わらず暴力的なジェフとの関係が一層こじれて、生活は乱れ調子を落としてしまい、1992年のアルベールビル五輪では、トーニャはジャンプに失敗し、ライバルのナンシー・ケリガンに次ぐ4位という結果に終わる。
そしてジェフとの争いは激しさを増し、トーニャは厳しい練習に臨むが結果を出せず、悶々とした日々を送る中で事件は起きた。
五輪前の大会の練習中、トーニャに殺害予告が届き、それに怯えたトーニャは試合を棄権した。それにヒントを得たジェフは、ライバルのナンシーに殺害予告をしようと友人のボディガードのショーンに持ちかける。
ケガはさせない心理戦を目論んだジェフだったが、ショーンに指示された手下のデリックは、試合会場に侵入しナンシーの膝を殴打する事件を起こしてしまう。
寝耳に水のジェフは話が違うとショーンに詰め寄るが、ショーンはボディガードの仕事が増えることを企み、トーニャに殺害予告したのも自分だと告白する。
すぐにデリックは逮捕され、トーニャとジェフはFBIの事情聴取を受け、ついにショーンも逮捕されて、ジェフが首謀者と証言したことから、マスコミに追い回される程の大スキャンダルに発展してしまう。
そしてリレハンメル五輪。トーニャはトリプルアクセル失敗と、靴紐が切れるというアクシデントに見舞われ、8位という結果に終わる。
五輪後に不服ながらも裁判で罪を認めたトーニャは、罰金刑のほか、大会出場権剥奪の判決を受けてしまう。
その後のトーニャは、むしろ敵役として生きる決意をし、ボクサーデビューをして、リングで血を吐き立ち上がる、すさまじい生き様を見せた。

《感想》冒頭「異論はあるだろうが、真実のインタビューに基づいている」と断り書きが出るが、確かに証言をもとに物語は構成されているものの、どこまで本当かはわからない。
劣悪な家庭環境も悪事の企みも笑いのネタにしてしまう軽妙な演出に乗せられた、悲惨だけど滑稽な、やや過激なファミリーのドラマである。
スケートの実力はありながら、素行の悪さも手伝い、審査員から「芸術性と品性に欠ける」「求められるのは完璧なアメリカの家族」と指摘される。
そして「社会に必要なのは、愛する仲間と憎い敵」という隠れた決まり事の前に、彼女は社会が求めるヒールに選ばれ、個人の力では抗えない運命に振り回されてしまう。
その結果、社会からはじき出され転落の道をたどってしまうが、スケートしかない彼女に、その道を閉ざしてしまうアメリカ司法の判断はまさに非情としか思えない。
登場するのは、粗野な母、暴力夫とその仲間という劣悪そのものの強烈キャラばかり。その誰もが自分の正しさを主張し、他人をおとしめ、嘘を取り繕おうとするから、何が真実かは最後まで見えてこない。
人々が求める正義を声高に代弁し、世論を作り上げていくのはマスコミであって、結局はマスコミによって真実(?) が作り上げられ、弱者たる憎い敵は追い払われてしまう。
映画は、見えない真実を見えないまま提示し、見えたかのように報道するマスコミや体制側の人たちの欺瞞を、シニカルな目でコミカルなドラマに仕立て上げた痛快な傑作である。
観終えて思うのは、こんな劣悪な境遇に生まれ育って、周囲と闘い続けた彼女の半生は、やはり切ない。

※他作品には、右の「タイトル50音索引」「年代別分類」からお入りください。

投稿者: むさじー

名画座通いの昔からネット配信の現代まで、温故知新、共感第一、ジャンル無節操をモットーに選んでいます。 何度も、観る度に感動する映画は大切ですが、二度と観たくない衝撃に出会うのも楽しみです。

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