『焼肉ドラゴン』鄭義信 2018

戦後を生きる在日コリアンの家族愛と葛藤を描く

《あらすじ》高度経済成長に沸き、翌年には万国博覧会を控えた1969年の大阪。空港近くの河川敷の国有地には、実質上不法占拠しているようなコリアンタウンの一角があった。
焼肉店を営む主人・龍吉(キム・サンホ)は戦争で左腕を失い、前妻との間の娘二人、長女静花(真木よう子)次女梨花(井上真央)と共に済州島からこの地に流れ着き、再婚した妻・英順(イ・ジョンウン)の連れ子美花(桜庭ななみ)、二人の間の長男時生(大江晋平)とで暮らしていた。
その年の春、梨花は店の常連客・哲男(大泉洋)と結婚することになっていたが、梨花としては姉の静花と哲男が幼馴染で、今もって想いを引きずっているようで気に入らない。
二人には一緒に夜の空港内に忍び込んで、静花が犬に噛まれ、その結果、足が不自由になったという過去があり、哲男は負い目に感じていた。
ナイトクラブのホステスをする美花は、既婚者のクラブ支配人・長谷川と不倫関係にあってその妻と揉め、静花に思いを寄せる韓国人常連客の大樹が彼女に積極的に迫ってきたことから、哲男との争奪戦のようになり、梨花は若い常連客の日白と深い仲になってしまうという、様々な恋模様が展開する。
梨花と哲男は結婚したものの、夫婦仲は悪化していった。
一方、有名私立中学に入学した時生は、韓国人であるが故のいじめに遭い、不登校になってしまう。
そして冬になり、留年が決まった時生に対し龍吉は、それでも日本人で生きていけ、学校へ行けと強制し、苦しんだ時生は川へ身を投げ自殺してしまう。
静花は大樹との婚約を決めていたが、北朝鮮への帰国事業で移住を決意していた哲男から想いを打ち明けられ、揺れていた静花は哲男に付いていく決心をする。
そして万博に沸く1970年夏、美花は離婚が成立した長谷川と結ばれ、梨花は日白と韓国に移住し、静花は哲男と共に北朝鮮に旅立った。
立ち退きを迫られていた家は取り壊され、龍吉は英順をリヤカーに乗せ、新たな土地に向かってエンド。

《感想》戦争によって左腕を失い、故郷を追われ、その後も在日として差別と偏見の中で生きている家族。だからこそ強い絆で結ばれていたが、時代の波が押し寄せ、それぞれの道に離散していく物語。
伝説の舞台の映画化で、映画脚本は多いものの本作が監督デビュー作。
いかにも貧しい暮らしを思わせるトタン屋根のバラックのセットと、その屋根から見える風景。その映画的な作りは、CGを含めて、時代設定が近いせいか『ALWAYS三丁目の夕日』の雰囲気に似ている。
一方で、夫婦がリヤカーで去ると焼肉屋の建物が崩れるラストシーンは、いかにも演劇的に見えて面白い。
両親役の韓国人俳優二人の存在感は圧倒的である。
特に父親キム・サンホが、結婚する娘の幸せを願い、自分の過去を独白する「働いて、働いて……」の長セリフは胸に迫るものがある。
本作の舞台は観ていないが、かつての鄭氏の舞台『GS近松商店』を観たとき、本作に通じる印象を持っていた。
「在日コリアンという出自だけで差別され虐げられた者の悲しみと、それをバネにしたエネルギーが、関西という風土の中で、特有の粘っこい笑いやギャグを含んで、猥雑にして聖なる空間を作り上げていく。
笑いに包んで重くなり過ぎず、それでいて人情喜劇の中に、現代人の孤独とか心の闇を巧みに描いている」と。
本作でも、ドタバタを含め雑多なエネルギーが混じり合い、涙あり笑いあり、その絶妙な融合を感じた。

※他作品には、右の「タイトル50音索引」「年代別分類」からお入りください。

投稿者: むさじー

名画座通いの昔からネット配信の現代まで、温故知新、共感第一、ジャンル無節操をモットーに選んでいます。 何度も、観る度に感動する映画は大切ですが、二度と観たくない衝撃に出会うのも楽しみです。

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