女になっていく夫と苦悩する妻が描く真実の愛
《公開年》2015《制作国》イギリス
《あらすじ》1926年のデンマーク・コペンハーゲン。夫アイナー・ヴェイナー(エディ・レッドメイン)は風景画家、妻ゲルダ・ヴェイナー(アリシア・ヴィキャンデル)は肖像画家で、ある日、妻に女性の足のモデルを頼まれた夫がタイツを履き、ドレスを身体に当てた体験から自分の中の女性を意識するようになる。
そして女装への興味を示し、もともと男性として生きながら違和感を持っていたアイナーは、化粧を施し、積極的に女装をするようになり、女装したアイナーをモデルにした、ゲルダの絵が評価されるようになる。
ゲルダ自身の絵画への情熱が高まり、また夫の姿が変わっていくことへの不安から、ゲルダは無理矢理アイナーをパリに連れて行く。
その頃既にアイナーは絵を描けなくなっていたが、パリでもゲルダの絵は成功を納めた。
しかしアイナーの戸惑いとゲルダの不安は続き、病院からは「性的倒錯」「精神分裂」「アイデンティティの混乱」と診断される。
やがてアイナーはリリー・エルベと名乗り、完全な女性になりつつあり、かつての幼友達で画商のハンス(マティアス・スーナールツ)と再会し、奇妙な三角関係が出来てしまう。
もはや男に戻れないリリーは、女として生きる道を探すうち、性転換の手術があることを知りドレスデンに行く。
1回目の手術は無事に終えたリリーは、デパートガールの職に就いたものの、危険が伴う2回目の手術で帰らぬ人となってしまう。
残されたゲルダとハンスは、アイナーがよく描いた故郷ヴァイレの風景の地に赴き、別れを告げてエンド。
《感想》冒頭、やや中性的ながら男にしか見えなかったアイナーが、徐々に女性らしい仕草、風貌を身に付けていき、女性リリーにしか見えなくなってくる。
妻ゲルダは、夫の意思を尊重しようと協力的に見えるが、奥に秘めた苦悩、葛藤が見えてくる。
異性への変身願望が高まり、もはや異性でしか生きることが出来なくなったとき、そんな自分を、あるいは配偶者を認めることが出来るか?
二人が対峙する様は、心理戦を見るように火花が散り、その熱気と凄味に圧倒される。
ストーリー的には、夫の身勝手な性癖に振り回されながら、理解ある妻は被害者という構図だが、結局は、異性であるかどうかではなく、互いに相手を人として愛していたということなのだろう。
とはいえ、夫が美しくなって女性の幸せを求めていけば、妻としての幸せが遠のいていくのは必然で、愛しているが故に苦しみ、そして変わりゆく夫の全てを受け入れる。こんな愛の形もあるのかとは思う。だから切ない。
いかにもイギリス映画らしい渋い色調の映像だった。
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