粗野な盗賊が神を受け入れるまでの苦悩を描く
《公開年》1962《制作国》イタリア
《あらすじ》2000年前のエルサレム。ここでは年に一度、罪人を一人処刑する代わりに一人釈放するユダヤ民衆の慣習があって、イエス・キリストと引き換えに、獄中にあった盗賊の親分バラバ(アンソニー・クイン)が釈放された。
自由になったバラバは愛人ラケル(シルヴァーナ・マンガーノ)と再会するが、彼女は既にキリスト教信仰に目覚めていて、キリストの死後、信者のラケルは捕えられ処刑された。
この出来事をきっかけに、バラバは再び盗賊の暮らしに戻り、捕えられて硫黄鉱へ流刑となる。
地獄のような労役の中で多くの囚人が命を落とし、バラバとキリスト教徒サハク(ヴィットリオ・ガスマン)だけ生き延び、総督の命で二人は剣闘士養成所に入れられる。
ところがサハクは闘技場で相手を殺すことを拒み、反逆罪で処刑された。
処刑に当たったのは隊長トルヴァドで、やがてバラバはトルヴァドと対決することになり、彼を倒した。
この闘いで皇帝に認められたバラバは自由を与えられ、サハクの遺体をキリスト教徒の地下墓地に葬った。
そこへローマの炎上が始まり、キリスト教徒の反乱だという民衆の声を信じたバラバは、神の声を聞いたかのように火をつけて回った。
そしてまた捕えられ、他の教徒と共に十字架に架けられたバラバは、静かに神に祈り処刑された。
《感想》粗野で無教養な盗賊の男は、キリストの代わりに生き残り、それでも神の存在を信じられなかったが、悪事の果てに生死を賭けた過酷な労役を課され、その試練を経て、神の存在を受け入れる、それまでの長い道程が描かれる。
それまで盗賊の首領として“金と力”を得ようと全力を注いできた男が、無私無欲の教えを理解するまでには、多くの葛藤があり多くの時間を要した。
そこに至る過程で、“金と力”で滅びた多くの人々を見て我が身を思い、自らの価値観が揺らぎ、迷い、あるべき自分を探して到達した境地だった。
バラバが発した“死後の世界”の問いに、キリスト教徒から「死とは無。あの世の者はすべて無の存在」と返される。
そして「私の魂を神のおそばに」と願い、“無の世界”に旅立っている。
何より、ローマ建築のセットやエキストラの人数など、CGの無い時代に良く作ったと思われる実写のスケールが素晴らしい。
地味で重く長い映画だが、テンポも良く、まさに20年を突っ走る叙事詩といえる。
商業映画としての成功は考えにくい作品だが、これだけ金と手間をかけて大作にしているところがイタリア映画の凄さか。
フェリーニ『道』では粗野で暴力的な旅芸人ザンパノを演じたアンソニー・クインだが、本作でも悪しき心を持った者が神に近づくまでの変遷を圧倒的存在感で演じている。
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