新潟発:壊れた家族、男と女の再生物語
《あらすじ》東京新潟間の夜行バス運転手をする高宮利一(原田泰造)は新潟に住んでいるが、東京・大森で小料理屋「居古井」を営む古井志穂(小西真奈美)と10年来の恋人関係にある。
息子の怜司(七瀬公)は東京で就職し暮らしていて、娘の彩菜(葵わかな)は地元でアイドル活動をしており都合のいい時だけ帰る半同居状態にあった。
志穂を新潟に誘い、夜行バスで訪れた志穂と夜勤明けの利一が家に入ると、東京にいるはずの怜司が仕事を辞め、マンションを引き払って戻ってきていて、気まずい思いの志穂は東京に帰ってしまう。
そんなある日、利一はバスセンターのベンチに座る元妻の美雪(山本未来)と再会する。
美雪は、新潟の実家で一人暮らしだった父・敬三(長塚京三)が今はマンション暮らしで、事故で入院し、痴呆の症状もあり、父の様子見と実家の管理で月に1回、新潟に通っているという。
利一は実家の手入れを申し出て、渋る怜司と共に手伝うが、彩菜は母に捨てられたことを恨みに反発する。
利一は姑との折り合いが悪く家を出た美雪の心のしこりを溶こうと、姑の仏壇に招くが、折悪く、ビワ茶を持って訪れた志穂と玄関で鉢合わせをして、再び気まずく帰ることになってしまう。
美雪は東京で再婚し8歳の子どもがいるが、夫は浮気中で、新潟の実父の面倒もあって、憔悴し切っている様子だった。
姑と妻の諍いを調整できなかった負い目が利一にはあり、つい優しく接してしまう元妻との再会が、志穂との関係にさざ波を立てる。
娘の彩菜には結婚を考えている恋人がいて、家族同士の対面となるが、先方の母親とは反りが合わず暗礁に乗り上げている。
美雪の実父は新潟のマンションを引き払い、東京の施設入所が決まり、引越しの手伝いをする利一に美雪は復縁を迫るが、利一は逃げるように避けた。
一方の志穂に対しても、強い思いを持ちながら、10歳以上若い志穂を幸せに出来るか、別の人生があるのでは、という迷いから別れを告げてしまった。
敬三、美雪の親子と、再会と新潟を離れる記念にと佐渡に旅行をするが、彩菜の姿はなかった。
すると翌朝、母から贈られた和服を着て現れ、母と和解する。
彩菜自身の恋人との別れが、合わない姑との確執に悩んだ母親に思いが及び、
母の気持ちが理解できたという。
利一は東京に帰る美雪を見送った。彩菜はアイドル業を本格化させ株式会社を立ち上げるという。また、再就職に躊躇していた怜司は、先輩から誘われたIT関連の仕事で、インドに行くという。
残された利一は東京の志穂を訪ねるが、お店は閉店し、就職先のレストランに電話するが仕事中で出られず、バス車内で泣き崩れる。
改めて志穂の重箱を持って、レストランを訪れ、裏口の愛犬が吠える声に志穂が振り返ってエンド。
《感想》男の優しさから生まれた気持ちの揺れが物語の軸にあるのだが、それが女のエゴと衝突したとき、男の甘さが一気に露呈してしまう。
優しさというのは、甘さ、弱さを隠しながら、裏には偽善や狡さがあったりして、究極はエゴなのではないかと思えたりもする。
利一は優しいが故に、ときに考え過ぎて臆病になる。
美雪に対しては幸せ薄い様子への同情、それを生んだのが自分の至らなさという負い目だが、ここまで負い目に感じる必要はないだろう。
志穂に対しては、まだ30代という若さに責任は負えないという、迷った末の逃げにしか見えない。
映画は、うまく噛み合わず、壊れてしまった人間関係をいかに修復するか、その再生の物語である。紆余曲折はあるが温かさに満ちている。
男の優しさと臆病さを余すところなく演じた原田、子を捨てた母の切なさが漂う山本、一途で健気な(その重さ?が泣かせる)小西、役者が皆よかった。
やや長尺に過ぎることと、結末のつけ方に省略し過ぎの感があることを除けば、丁寧に描かれた感涙必至の秀作である。
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