『靴職人と魔法のミシン』トム・マッカーシー

ダメ男の変身願望を叶える分相応なファンタジー

靴職人と魔法のミシン

《公開年》2014《制作国》アメリカ
《あらすじ》ニューヨークの下町で4代続く靴修理店を営むマックス(アダム・サンドラー)は、認知症が進み始めた老母と二人、平凡な毎日を送っていた。
父親は過去に突然、謎の失踪をしていた。その代わり、隣の理髪店主ジミー(スティーヴ・ブシェミ)は父の親友で、何かと心配してくれる。
ある日、修理途中にミシンが壊れ、地下の旧式ミシンで張り替えたところ、何と靴の持主に変身してしまった。
もしかしたらミシンのせいでは?と気付いたマックスは、その古いミシンで他の靴も修理し直してみる。そして変身を試みる。
認知症が進んだ母の願いを聞くと「父との食事」と言うので、父の古い靴を直し、父に成りすまして母とディナーをし、ダンスを踊って親孝行をする。
翌朝、母は亡くなった。
店に客として来た黒人の大男レオン(クリフ・メソッドマン・スミス)は横柄で侮辱的な態度をとるため、マックスは怒り懲らしめてやろうと、彼の後をつけマンションに入る。
レオンは本物の悪党で、丁度帰宅した本人と格闘の末、椅子に縛り付けたところ、今度は手下が迎えに来て、レオンに成りすましたまま倉庫に連れて行かれる。ちょうど裏切り者の仲間を殺そうとしているところだったが、殺害を中止するよう命令して帰る。
レオンの部屋に戻ると、逆上したレオンと格闘の末、レオンを誤って殺してしまうが、警官と一緒に現場に戻ると、死体が消えて事件にならなかった。
また、暴力団に銃を突きつけられて車で連れ去られるが、途中交通事故にあってしまい、ところが気がつくと隣の理髪店に居るという不思議なことが起こる。
実はジミーはマックスの父親(ダスティン・ホフマン)が変身した姿だった。
父も靴のせいで悪党と揉め事を起こし、家族のために身を隠し、隣家から見守っていたもので、その地下室には変身用の靴がたくさんコレクションされていた。



《感想》たわいもないファンタジーと言えなくもなく、突っ込み所は満載なのだが、変身の設定が秀逸な上に、他者になり切れない主人公が魅力的で、単なるファンタジーとかコメディという枠を超えた何かを感じた。
変身した先の主人公には外見は他人、心情は自分という複雑な事情があって、観客は笑いながらもそれを納得していて、ダメ男の変身願望には思わず肩入れし、その心情に自然と共感している。
イケメンに変身してもダサさが抜けず、お金欲しさに強盗をする浅ましさ、裏切り者であっても許してしまう小心さ、悪事を隠せず警察に出頭する正直さ……どことなく現実的で、ファンタジーに跳び過ぎないところがある。
荒唐無稽なドタバタ劇だとアメリカでは酷評されたらしいが、スーパーマンにならない変身劇はハラハラし通しで引き込まれるし、かつ温かい。
夢に満ちただけのファンタジーより血が通っている。
ファンタジーとはいえ、足が地に着いていて、妙にリアルなのである。

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投稿者: むさじー

映画レビューのモットーは温故知新、共感第一、良品発掘。そして、世間の評価に関係なく私が心動かされた映画だけ、それがこだわりです。やや深読みや謎解きに傾いている点はご容赦ください。 映画は広くて深い世界、未だに出会いがあり発見があります。「いやぁ~映画って本当にいいものだ」としみじみ思います。