『バーディ』アラン・パーカー

反戦、友情、そして最後に語るものは?

バーディ

《公開年》1984《制作国》アメリカ
《あらすじ》舞台は1960年代のフィラデルフィア。ベトナム戦争から帰還したアル(ニコラス・ケイジ)は顔面に重傷を負い、故郷の病院で子どもの頃からの親友バーディ(マシュー・モディン)に会うが、バーディは精神病棟で鳥のように身をすくませていた。
彼の担当医師は、前線で精神錯乱を起こした彼を、友の呼びかけで正気に戻せないかと言い、アルは必死に呼び掛けた。
かつてバーディはひたすら鳥になりたいと考えている少年で、二人は町中の野鳩を捕まえ伝書鳩にして売ろうとしたり、手製の翼を作って試験飛行をしたり……。
スポーツマンで女の子に積極的なアル、人付き合いが下手で自分の世界に閉じこもりがちなバーディと、何から何まで対照的な親友同士だった。
やがてアルが戦争に出征し、バーディもベトナムに向かった。
地獄の戦場で傷つき、自由に飛び回る鳥たちを見て、バーディは鳥になる夢を見る。
今、地獄と夢想が錯綜し、部屋の隅に鳥のようにうずくまるバーディの世界に、アルは必死に呼び掛ける。
そして精も根も尽き果て、主治医も治療を断念しようとしたとき、アルに呼び掛けるバーディの声が聞かれ正気に戻る。
しかし主治医が信用しないため、看護人の手を逃れて二人は屋上に上がる。と突然バーディが鳥のように飛び降りてしまう。
アルが悲鳴を上げて下をのぞくと、一段下のバルコニーに笑顔のバーディがいた。



《感想》ベトナム戦争でPTSDを発症した青年と、彼の心を取り戻そうと努める親友の友情物語であると共に、優れた反戦映画である。
現在と過去を交差させるストーリーと、畳みかけるような展開には目が離せないし、基本シリアスな中にコミカルな要素を挿入する演出の巧みさには目を見張るものがある。
鳥は“飛翔”の象徴、少年期に夢見た“鳥になること”は自由への憧れであると共に、現実からの逃避、離脱だったかも知れない。
だからラストシーンでは、バーディが鳥になって羽ばたいたように見え、あわや自殺か?と思いきや、下階のバルコニーに着地していたというオチに行き着く。
このシーンで、映画を観ていた観客の多くが腰を浮かせたというエピソードを読んだ記憶がある。
ラストのバーディの笑顔があまりに唐突で、かつ呆気ない幕切れで、今一つ腑に落ちないという否定的意見もあるが、暗く重い内容に耐えてきた観客に、安堵と明るい笑みがもたらされたことは確かである。
精神病棟という鳥かごから飛び立ったバーディは、空には飛んで行かず、地上の現実の世界で生まれ変わろうとした。
ラストシーンの解釈で、映画の印象、余韻は大きく変わってしまう。
少年時代からバーディに振り回されてきたアルだが、最後までハラハラさせられ、でもこの笑顔は本来のバーディに戻った証しであり、空に飛べずとも、この地上で二人して生きていける、少しだけ明るい未来を示したものである。

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投稿者: むさじー

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