名もなく貧しい人たちにエールを送る人情話
《公開年》2014《制作国》フランス
《あらすじ》出所するエディ(ブノワ・ポールヴールド)をオスマン(ロシュディ・ゼム)が迎えるシーンから始まる。
昔の仕事仲間で命を助けられたこともあるオスマンは、友人エディのためトレイラーの住まいを用意していた。
妻が入院しているため娘のサミㇻと暮らすオスマンは、家族のため懸命に働いているが、エディは職がないためサミラの世話をすることになる。
ある日、古いテレビを持ち込んだエディが、チャールズ・チャップリン死去のニュースを見て、とんでもないことを言い出す。
それは、チャップリンの遺体を“誘拐”して身代金を要求すること。
オスマンも妻の入院費用が必要で、その計画を手伝うことになり、何とかチャップリンの棺を掘り出し、別の場所に隠すことに成功する。
それは世界的大ニュースになり、身代金要求の電話をかけても“いたずら電話”としか扱われず、証拠として「棺の写真を送れ」と言われ、写真を送ったものの身代金の受け取りには失敗し、警察に捕まりそうになって、二人は仲間割れしてしまう。
さすらいの身になったエディは、サーカスの一団と出会い“道化師”になる。
そこへオスマンからエディに誘いの連絡が入り、再び手を組むことになって、妻の治療費分だけをチャップリンの遺族に要求するが、近隣の全ての公衆電話に警察が張り込んでいて、二人は逮捕される。
裁判の席において弁護士は「二人は既に不幸と言う罰を受けている」とかばい、遺族は告訴せずに妻の治療費を出してくれる寛大な処置がされる。
かくしてオスマン家には安らぎが訪れ、エディは道化師としての活躍の場を得てエンド。
《感想》1978年に起こった実話が元ネタになっている。
“放浪の紳士”チャップリンは移民で貧しい我々の味方、だからこんな罪ある行為も許してくれるはず、という発想が犯行動機になっている。
「貧しく恵まれない人々の物語を描く」ことで、稀代の大金持ちになったチャップリンだが、「貧しい者をネタに大金持ちになった」チャップリンへの皮肉とも取れる(チャップリンの子息も映画に出演していて、チャップリン家の寛大な処置が描かれるので、もちろん皮肉ばかりではないが)。
裁判の席で弁護士は言う「彼らは(チャップリンと違って)無能で名声もなく歴史に残らない。そして貧しい」。そんな社会から落ちこぼれた人たちにエールが送られ、これが作り手のメッセージになっている。
英語のタイトルは「The Price of Fame」で有名税のような意味。
全編「ライムライト」を始めとするチャップリンへのオマージュが見られるが、その中に辛辣な社会批評を垣間見せる。
映画の前半はゆる過ぎでやや眠くなるものの、そのうち、スイスの美しい風景の中で繰り広げられる人情話に引き込まれていく。
それは、コメディでも単なるエンタメ作品でもなく、強いて言えばヒューマンドラマ(人情話)と言えそうな、地味でジンワリくるフランス映画だった。
それにしても、エンドロールの後、湖畔のチャップリン像が何者かの手で盗まれる映像が流れるが、これは起こりそうな“二匹目のドジョウ”を意味しているのか。わざわざ入れた意図が読めない。
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