実録マフィアを基に描く、人間の欲望と冷酷な世界
《公開年》1990《制作国》アメリカ
《あらすじ》1955年のニューヨーク・ブルックリン。ヘンリー(レイ・リオッタ)は少年の頃からマフィアに憧れ、地元のボス、ポーリーの元で下働きを始め、後に街で一番恐れられているジミー(ロバート・デ・ニーロ)やその弟分のトミー(ジョー・ぺシ)と組んで仕事をするようになる。
不法な売買、貨物の強奪など一人前のマフィアになり、カレンと出会って恋に落ち結婚する。
ところが仲間のトミーは血の気が多く、些細なトラブルから、大物マフィアのバッツや若いウェイターを殺害してしまい、ヘンリーやジミーもその後始末を手伝う。
ヘンリーとジミーは暴行事件で4年間刑務所に服役するが、カレンが運び屋を務めて所内で麻薬の売買をし、出所後もそれを続ける。
そんな中、ルフトハンザ空港で600万ドルを強奪する計画がジミーの仕切りで進み、ヘンリーも仲間に加わり、強奪は成功して大金が手に入る。
しかしジミーは、大きなヤマだけに発覚を恐れ、羽目を外して高価な買い物や豪遊する者を次々に殺し、強奪に加わった仲間で生き残ったのはヘンリーとトミーだけだった。
そのトミーも、バッツ殺しの咎めでファミリーの手で殺され、トミーの死がヘンリーとジミーの関係に微妙な変化を生む。
麻薬中毒になっていたヘンリーは逮捕され、保釈されたものの身の危険を感じていて、ポーリーに助けを求めるが縁を切られてしまう。
ジミーに殺されることを確信したヘンリーは、掟を破り警察の保護下に入って生き延びる道を選び、裁判でジミーとポーリーの罪を証言する。
《感想》マフィアと言っても『ゴッドファーザー』のような統制されたファミリーではなくて、もっとドロドロした欲と裏切りに満ちていて、金と女、恨み、妬み、そして保身が全てといった世界で、実話を基にしているだけに極力美化や偽善は排除されている。
スコセッシは、マフィアの世界を舞台にして人間の欲望を描き、その栄華と衰退の様を描こうとしているようだ。そこから様々な人間模様が見えてくる。
と同時に、それまで敵だった警察権力に最後は身を守られ、賢く生き残ったマフィアを描いて、その世界の行き場のない末路をも揶揄したものと見ることが出来る。誰もハッピーエンドを迎えず、後味の悪さを残す。
凄惨なシーンは多いのだが、マフィアの実録ものとしては、コミカルな要素とブラックユーモアに満ちていて、音楽も軽快なロックで盛り上げている。
役者では、主人公ヘンリーはやや温厚な性格で、この手の映画では今一つ精彩を欠くが、相棒二人の醸し出す狂気の様が凄い。
特にトミーは小柄ながら甲高い声と切れやすい凶暴キャラで、強烈に光っていた。またジミーは、どこかギラついていて、抑えきれない暴力性と、邪魔なら仲間も消す冷酷さで静かに怖いタイプであり、最強のコンビである。
マフィアの冷酷な世界を、人間の欲望と悪意がうごめくエンタメ作品に仕上げたスコセッシの傑作である。
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