「『僕の戦争』を探して」デヴィッド・トルエバ

挫折した若者と優しい中年男が人生を見つめ直す旅

「僕の戦争」を探して

《公開年》2013《制作国》スペイン
《あらすじ》1966年のスペイン・アルバセテ。あだ名が「5人目のビートルズ」と言うほどのビートルズファンの語学教師アントニオ(ハビエル・カマラ)は、憧れのジョン・レノンが『僕の戦争』の撮影でアルメリアに滞在していることを知り、彼に会おうと、撮影現場に車を走らせる。
途中、望まれない子を妊娠し、心が折れそうになっているベレン(ナタリア・デ・モーナ)と、口うるさい父に反発し、窮屈な日々から逃げようと家出した16歳のファンホ(フランセスク・コロメール)を拾う。
アントニオが二人に言う「人生は犬と同じだ。怖がると噛みつかれる」。
簡易宿泊所と酒場兼食堂が隣り合わせで、そこの主人には身障者の息子がいて、周囲には学校にも行けない子どもたちがたむろしている。
当時のスペインは、フランコ独裁体制下にあり、人々が感じている閉塞感とか社会的背景がさりげなく描かれている。
ファンホはウエイターとして働きだし、アントニオはベレンに求婚するが、ベレンの気持ちはファンホに傾き……微妙な恋模様が展開する。
アントニオは撮影現場のジョン・レノンに会うことが出来、彼の歌を録音して持ち帰る。
ファンホは迎えに来た父親の車でバルセロナに帰ることになるが、ベレンに美容師の勤め口があると誘い同乗させる。
アントニオはと言うと、以前イジワルをされた男の農場に向かって畑を荒らし、車で逃げるところでエンド。



《感想》挫折した若い二人が、アントニオの温かい人柄に触れ、少しだけ人生に前向きになろうとする。
そして、アントニオは若い二人に明るい未来を託すという真摯なメッセージが込められている。
教師アントニオを演じたハビエル・カマラの、ハゲで風采が上がらない独身中年男性のキャラは、独特の存在感を示している。
最も印象に残ったのが、料理を温めようにもガスが点かず、アイロンを逆さにして、そこに鍋を置き温めるというシーン。多少の不便さとか辛さとかは難なくクリアする人で、とても“いい人”なのである。
だから求婚した相手にそんな気持ちが無くても乗り越えていけるし、でもそんなことばかりではやはり切ないので、後ろから応援したい気にさせる不思議な魅力を持っている。やや“寅さん”的キャラか。
爆発力はないが、優しく温かくジンワリ心に響くロードムービー。
ただ不満なのも、その達観していて、淡々とし過ぎている点である。

※他作品には、右の「タイトル50音索引」「年代別分類」からお入りください。

投稿者: むさじー

映画レビューのモットーは温故知新、共感第一、良品発掘。映画は広くて深い世界、未だに出会いがあり発見があり、そこに喜びがあります。鑑賞はWOWOWとU-NEXTが中心です。高齢者よ来たれ、映画の世界へ!