『ハッピーエンドの選び方』タル・グラニット他

尊厳死、安楽死の是非を正面から問うドラマ

ハッピーエンドの選び方

《共同監督》シャロン・マイモン《公開年》2014《制作国》イスラエル
《あらすじ》イスラエルの老人ホームで暮らす夫ヨへスケル(ゼーヴ・リヴァシュ)と妻レバーナ(レヴァーナ・フィンケルシュタイン)。
レバーナには少し認知症の症状が出始めている。
ヨへスケルは若い頃からの発明好きで、ある日、寝たきりの友人マックスから安楽死は出来ないかと相談を受け、悩んだ末に完成させる。
患者がスイッチを押すことで、点滴液にまず睡眠薬が入り、1分後に劇薬が注入される装置で、スイッチを押すまでの患者のメッセージをビデオ撮影している。
そのうち老人ホーム内では安楽死装置の噂が広がり、病に苦しむ妻を殺して欲しいという老人からの依頼が舞い込む。
尊厳死、安楽死がメインテーマなのだが、おじいちゃんのゲイカップルが登場したり、レバーナの症状が進行して裸でうろついたりすると、励ますために夜の温室で、皆が裸で酒を飲み始める心優しいエピソードが挿入される。
そうこうするうち、レバーナは自分が自分でいるうちに死にたい、そのために安楽死装置を使いたいと思うようになるが、ヨへスケルは自分の妻が死を望むと、うろたえて怒る。
しかし薬を大量に飲み自殺未遂を起こしたレバーナを見て、認知症で自分が失われる前に死ぬ、そのために安楽死装置を使うことを決心する。二人がキスをして最期を迎えるところでエンド。



《感想》タイトルから、老人問題を明るく描いたヒューマン・コメディかと思って観始めたら、とんでもなく重く、タブー視されがちなテーマへの直球勝負の映画だった。
レバーナは72歳で、まだ時折症状が現れる中期程度の認知症で、日本では一般的な施設入所患者のレベル。まだ女性としての魅力も十分備えた存在でありながら、みんなにお礼を言って旅立って行く。これが認められていいのか。
物語の中に出てくる終末期医療にあって、先が見えていて苦しみを逃れるためならともかく、“幸せな最期、自分らしく自ら選んだ最後”という尊厳死だけが強調されると、今の日本や各国で行われている介護を伴う医療や、終末期医療のあり様が否定されているようで、複雑な思いになる。
でも、犯罪と知りながら加担してしまう思いは、切ないし重い。
それを正しいか否かではなく、ここまでストレートに表現した映画はなく、それを評価したい。
この映画で描かれた安楽死装置(麻酔薬注入⇒塩化カリウム注入による心臓停止システム)は『デッドマン・ウォーキング』でも示されていて、アメリカの死刑執行に使われている装置の手作り版とのことである。

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投稿者: むさじー

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