『キサラギ』佐藤祐市 2007

オタク心と遊び心で楽しむサスペンス

キサラギ

《あらすじ》売れないアイドル・如月ミキが焼身自殺を謀ってから1年後、ファンサイトのメンバー5人が追悼式と称して集まった。
メンバーの一人、オダ・ユージが「自殺ではなく殺人だ」と言い出したことから状況は激変する。そして最初は隠していた素性が徐々に明かされていく。
1)オダ・ユージ(ユースケ・サンタマリア)はミキのマネージャー。売れないミキを売り出そうとヌード写真集まで追い詰めた負い目から犯人捜しに走る。
2)スネーク(小出恵介)はミキが通う雑貨店の店員で、恋人と間違われるが、単なる客と店員の関係。
3)安男(塚地武雅)はミキの幼馴染みで、死亡当夜もミキの悩み電話相談を受けていた。
4)いちご娘(香川照之)はミキの近所に住むストーカーと思われたが、実は幼い頃別れた父親。
5)家元(小栗旬)はこの会の主催者だが、ファンレターを200通送ったのみの関係で、自分だけミキと直接の接点がないとすねる。
そうこうするうち事件の真相に迫る。ミキは自殺ではなく事故死。
ゴキブリ退治の洗剤のつもりで、サラダ油を部屋にまいてしまい、アロマキャンドルをつけて寝てしまって、たまたまその夜に起きた地震で倒れたアロマキャンドルの火が床の油に点火したというもの。
ではなぜ寝室ではなく、クローゼットで死んだのか?それは段ボールに入った家元からの大量のファンレターを取りに行って逃げ遅れたため。
家元からのファンレターは大事な宝物で、家元のために誕生祝のクッキーを焼いていたことを知り、家元は泣く。
来年も集まろうと約束してエンドロールになるが、その途中にイベントの映像が入り、司会者が「この2年でミキは殺害されたという結論に至った。その証拠はこれだ」と針金を見せる。(どことなく続編を予感させるエンディングだが、続編は生まれなかった)。



《感想》ペントハウスの一室で繰り広げられる、舞台を見ているような会話劇で、脚本(古沢良太)の妙味が味わえる。
徐々に素性が明かされ、張られた伏線が回収されていく。
少し見えてしまう程度に伏線は軽めで、結末も落とし所を計算して……とは思うのだが、バカバカしくも面白い。サスペンスとコメディがうまくブレンドされている。
キャラ設定や謎解きの展開は面白いと思うものの、アイドルオタクの深い想いは感じられず、全体が練られた作り物という印象で、今一つ感情移入を拒んでいる気はした。これも制作意図の一つだろうが。
それから、これから先にまたどんでん返しがあるようなラストのメッセージは、この映画のオチそのものが明確な根拠のない、いわば“5人が納得する結論”のようなものなので、続編を作る深読みスペースを残してはいるものの、(その気はなく)何となく作り手の一種の遊び心かな、という気はする。

※他作品には、右の「タイトル50音索引」「年代別分類」からお入りください。

投稿者: むさじー

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