飄々とした知的ゲームのようなノワール
《公開年》1973《制作国》アメリカ
《あらすじ》チャーリー(ウォルター・マッソー)は元曲乗り飛行のパイロットで、現在は小銭を狙った銀行強盗。仕事は楽だし、追及もそう厳しくない。
今回も妻ナーディン、相棒のハーマン(アンディ・ロビンソン)ともう一人の手下で町はずれの銀行を襲撃したが、警官との撃ち合いになり、妻が重傷を負って、逃げ延びたものの、妻の傷は深く助かる見込みがないため、車に残したまま火を放つ。
隠れ家に戻ったチャーリーは奪った金が75万ドルもあるのを見て呆然とし、マフィアの洗浄資金であると確信する。
妻の身元が知れるのを防ぐため、土地の歯科医院に忍び込んで妻のカルテを奪い、自分とハーマンのカルテを入れ替えた。
その頃、銀行協会の会長で地元マフィアのボスでもあるボイル(ジョン・ヴァーノン)が、一味の殺し屋モリー(ジョン・ドン・ベイカー)を使って犯人捜しに乗り出し、相棒のハーマンはモリーの手によって殺されてしまう。
チャーリーは偽造パスポートを作ろうと画策するが、敵に包囲されていると気づき、作戦を変える。
彼はボイルに電話をかけ、盗んだ金を返すからマフィアからの追及をやめるよう話し、ボイルを交渉の場に誘い込む。
元々殺し屋モリーはボイルがチャーリーの黒幕ではないかと疑っていて、チャーリーが交渉の場で親しそうにボイルの肩を抱いたため、陰にいたモリーはすっかり誤解して、ボイルを車でひき殺してしまう。
チャーリーは乗ってきた複葉機で逃げようとし、それを追うモリーとのチェイスになり、モリーの車に追突されたチャーリーの複葉機は逆さまになって、チャーリーは身動きがとれなくなる。
金のありかを追及されたチャーリーは、車のトランクの中を示し、あらかじめ仕掛けてあった爆弾で、モリーとハーマンの死体を吹き飛ばしてしまう。
そして盗んだ金を少しばら撒いて逃走する。
やがて歯型からアシがつくだろうが、カルテは入れ替わっているので、自分は既に死んだことになっているはずだ。エンド。
《感想》主人公は小物の強盗団・チャーリーとやや頼りない相棒たちで、マフィアの裏預金を強奪してしまったがために、警察とマフィアに追われる話だが、そのマフィアの取り巻きのキャラ設定が絶妙である。
強烈な存在感を示すマフィアのボスや殺し屋だけでなく、裏金の存在を知っていて追い詰められ自殺してしまう可哀想な銀行支店長、どことなく色っぽい銀行頭取秘書、足元を見てぼったくる女性のパスポート偽造屋等々。
そして、知力と体力を駆使しての攻防、後に伏線と気付くが、周到な逃走準備と巧妙な仕掛けを用意して、そこに誘い込むことで窮地を逃れる。
アクション映画の出来としてはチープかも知れないが、知的ゲームのような展開で魅せる。これは脚本の勝利で、完成度は高い。
コーエン兄弟『ノーカントリー』(2008年)の’70年代版(元ネタ?)のように言われるが、もっと飄々としていてユーモアもあり、単なるサスペンスにしていないところが凄い。
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