『最愛の子』ピーター・チャン

誘拐事件の裏に潜む一人っ子政策の闇を描く

最愛の子

《公開年》2014《制作国》中国、香港
《あらすじ》深圳でネットカフェを営むティエン(ホアン・ポー)は3歳の息子ポンポンと暮らし、別れた妻ジュアン(ハオ・レイ)は週1回面会を許されている。
ある日、母との面会が済んだ後、母の車を追いかけたポンポンが何者かに誘拐されてしまう。
必死に情報提供を呼び掛け、捜索を続け、「行方不明児童を探す会」にも参加し、遂には店も放棄せざるを得なくなり、屋台を始めて暮らしを立て……と厳しく苦悩に満ちた日々が続く。
行方不明から3年、安徽省の田舎にポンポンらしき男の子がいるとの情報を得て向かうと、ホンチン(ヴィッキー・チャオ)という女を母親と慕い、妹らしき子と暮らしていた。
ホンチンの実子ではなく、亡き夫が連れてきた養子で、自らを不妊症と信じていたホンチンは、ポンポンを溺愛し、工事現場で拾ってきたという女の子とともに育てていた。
やがて、夫が誘拐の容疑者と分かり、ティエンとジュアンはポンポンを連れ帰るが、幼かった彼には両親の記憶がほとんどなく、未だにホンチンを母親と信じ、ホンチンもまた、彼や養護施設に預けられた女の子を諦め切れずにいた。
誘拐の証拠がないホンチンは半年で出所し、施設に預けられた娘だけは引き取りたいと施設側を相手に裁判を起こそうとし、同情したカオ弁護士の助けを得て、娘が本当に捨て子であったことを証明しようと奔走する。
そのために亡夫の同僚の男と関係を持ってまで証言台に立たせようとする。
一方ジュアンは、ポンポンのためにも妹を引き取ろうとし、二人のどちらが養育権を取るかの裁判が始まるが、裁判官には誘拐者の妻であるホンチンに子どもを返す気はなく、かと言って、ジュアンも夫との間のゴタゴタから離婚協議中であることがバレて、不利な状況に陥り、その場で答えは出なかった。
しかし、ティエン、ジュアン、ポンポンの関係は順調に前に進んでいた。
一方ホンチンは、母親の介護をするカオ弁護士の家のヘルパーになろうと、健康診断を受けたところ、何と妊娠が判明。夫の同僚の子で、不妊症ではなかったという皮肉なエンディング。



《感想》まるでドキュメンタリーのようなタッチで、かつ様々な社会問題が提起されている映画。そして事実や問題を羅列するだけでなく、優れた人間ドラマになっている。
中国で多発する行方不明事件の背景にあるのが、かつての「一人っ子政策」で、後継者を欲するところから、人身売買が大きな市場になっているという。
一方で、「政策」によって一人で老親を支えなければならない使命を背負った子どもにも悲壮感が漂う。
地方裁判所では、あまりに行方不明者が多くて手が回らず、裁判官は簡潔に要領良く裁くといった体で、制度そのものが疲弊しているという。
更に第二子を産む際の壁、拡大する経済格差の問題も描かれている。
検閲が厳しいという中国で、よくここまで表現できたと思う。そして、この作品では、一人ひとりの状況や感情が実に丁寧に描かれている。
その結果、深い人間ドラマになっていて、それは絶望の物語でもあるのだが、現実として受け止めなければならないのだろう。
暗くて重いが、惹きつける力のある映像だった。

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投稿者: むさじー

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