『さざなみ』アンドリュー・ヘイ

老いても妻を大切に、という教訓のドラマ

さざなみ

《公開年》2015《制作国》イギリス
《あらすじ》イギリスの静かな田舎町で暮らし、結婚45周年パーティを間近に控えた熟年夫婦、夫ジェフ(トム・コートネイ)と妻ケイト(シャーロット・ランプリング)の1週間が描かれる。
月曜日、夫ジェフあてにスイス警察から手紙が届き、50年ほど前に雪山で遭難した若き日の恋人カチャの遺体が発見されたので、遺体確認に来て欲しいとの内容だった。
それ以来、心の中で止まったままだったジェフのカチャとの時間が動き始め、ケイトの存在を忘れて、気持ちがスイスのカチャに向いてしまう。
ジェフは元恋人の写真を探し、懐かしみ、当時の懐かしい曲を聴き、図書館で氷河と地球温暖化のことを調べ始め、心ここに在らずという日々が続く。
そんな夫の行動に、ケイトは知らなかった夫の過去を知り、嫉妬と怒りの気持ちが膨らんでいく。
屋根裏部屋で見つけた恋人の写真は妊娠していて、死ななかったら結婚するつもりだったという夫の告白も聞いた。
金曜日、町に出かけたジェフを問い詰めると、ケイトの予想通り、スイスに行こうと旅行会社に出向いていたという。
ケイトの怒りは頂点に達し、ジェフは誤解だとうろたえた。
そして土曜日、迎えたパーティで、夫は「ケイトと出会い結婚したことが人生で最高の選択だった。愛してる。」と型通りのスピーチをし、45年前の曲でダンスを踊るが、ケイトはダンスの途中で夫の手を振り払って立ち尽くす、という不気味なエンディングを迎える。



《感想》原題は『45YEARS』。
45年間、夫婦を結び付けていたものは何だったのか。愛情だけで結ばれていたとは思わないが、嘘と欺瞞ばかりでもなかったはず。
夫の無神経な行動に、今まで二人で積み重ねた思い出が、苦く欺瞞に満ちた過去に変わり、妻は自分の人生を全否定されたかのように怒る。
無神経な夫と嫉妬深い妻の痴話喧嘩と言えなくもないが、もっと静かで根深く、一瞬で関係が崩れてしまいそうなもろさをはらんでいる。
女性より、男の方が過去の恋愛を引きずりやすい傾向があるようで、これは要注意である。別れを選ぶほど若くないし、老後の孤独は避けたいもので、教訓と受け止めたい。
そんな夫を持った妻の心の機微を、言葉でなく、眼差しや佇まいで表現するランプリングの演技は鳥肌ものである。
決して若者には理解されそうにない老年心理ドラマ。
秀作だが地味過ぎる気はする。

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投稿者: むさじー

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