『グランドフィナーレ』パオロ・ソレンティーノ

人生の終局で迎える絶望と再生の物語

グランドフィナーレ

《公開年》2015《制作国》イタリア、フランス、イギリス、スイス
《あらすじ》ともに80歳を迎える音楽家フレッド(マイケル・ケイン)と映画監督ミック(ハーヴェイ・カイテル)が主人公で、舞台は二人がバカンスを過ごしているスイスの高級ホテル。
フレッドは英王室からの祝賀演奏会への再三の依頼を断り、ミックはスタッフと共にブレンダ(ジェーン・フォンダ)主演の、おそらく自身最後の作品になるであろう新作の構想に取り組んでいる。
そんなところへ、フレッドの娘レナとミックの息子ジュリアンの離婚騒ぎが起こり、ホテルに滞在中の映画俳優ジミーが抱える、ロボット役で売り出したため、その印象でしか評価されないという嘆きが加わったりする。
フレッドが英王室からの依頼を断っている理由を話す。代表曲『シンプルソング』は妻メラニーのために作った曲で、それを歌えるのは妻だけ。しかし妻や家庭を顧みず音楽だけに打ち込んできた過去を振り返り、そのことで妻をどれほど傷つけてきたか、娘のなじる言葉にフレッドは悔恨の念を抱いている。
一方のミックは、ブレンダから降板の申し出と、“過去の人”で良い作品は無理と宣告され、ショックを受ける。
映画が人生の全てで、帰るべき“日常”を持たないミックは、フレッドの目の前で飛び降り自殺を謀り、その訃報を飛行機で聞いたブレンダは詫びて泣き叫ぶ。
友を失ったフレッドは妻のメラニーを訪ねるが、彼女は精神疾患を患っていて表情がない。そんな彼女に出会いの頃の話をして「私たち自身がシンプルソングだ」とその想いを口にする。
主治医から身体に異常がないことを知らされたフレッドは「今まで何も知らないまま年をとっていたこと、外界にあるのは“Youth(若さ)”であること」を知る。そして再びコンサートの指揮台に立つ。



《感想》原題(Youth)と邦題が持つ不思議なアイロニーだが、ともに理解できる。どんな華やかな世界で活躍した才能ある人間でも、やがて全てを過去としてしまう老いが訪れる。
若さを失った老人が持つ退廃と懐古の感情、そんな切なさとか恐れを払拭し、最後は再生していくという物語。
フレッドが再び音楽の世界に戻ることを促した医師の言葉も啓示に富んでいる。「このホテルの外の世界にあるのは若さ、自分の殻に閉じこもり、過去の後悔と現在の無力さばかり嘆いていないで、思い切って外の世界に飛び出せば、あるいは何か見えてくるかも……」。
人生に対して真摯に向き合っていて、知的で深く、人間への愛とか優しさが感じられる作品だが、ストーリーに目新しさはないし、ドキドキハラハラする“面白い映画”ではない。
世代によって評価が分かれ、年配者の共感は得られるような気がするが、若い人には“退屈な映画”としか映らないかも知れない。

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投稿者: むさじー

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