『フェイク』マイク・ニューウェル

捜査官とマフィアの、禁断の友情と切ない宿命

フェイク

《公開年》1997《制作国》アメリカ
《あらすじ》FBI潜入捜査官ジョー・ピストーネ(ジョニー・デップ)はドニー・ブラスコと名乗り、マフィアの一員レフティ(アル・パチーノ)と接触を図る。
マフィアの内部抗争が激化する中、危ないから戻れという指令を無視して潜入を続ける仕事人間のドニー。かつての威厳も力もない落ちぶれ気味の哀愁溢れる中年マフィアのレフティ。
潜入捜査の常でハラハラしながら組織に入り込み捜査実績を上げていくドニーと、そんなドニーを週に2日も自宅に呼んで面倒をみるレフティは、単に兄弟分という以上の絆で結ばれていく。
そしてドニーの仕事も終盤を迎え、自分が消えて身分がばれればレフティが殺されると危惧したドニーは、隠しておいた金でレフティを逃がそうとするが、ドニーを信じ切っているレフティは、「もしお前が裏切り者なら、俺はマフィアの歴史に残る大馬鹿者」とドニーを信じていることを告げ、二人して抗争相手を殺しに行ってFBIに逮捕されてしまう。
月日が流れ、ドニーは捜査官の功績を表彰され、レフティも既に釈放されているが、ドニーの正体がレフティにも知らされる。
それでも「ドニーを裏切り者に仕立てる気だ」と思いつつ、疑念を膨らませていくレフティだったが、上から呼び出しがあり、覚悟を決めたレフティは妻に言う。「ドニーから電話が来たら伝えてくれ。“お前だから許せる”と」。
そして少しでも金になりそうな貴金属は全てはずして家を出て行くレフティ、もう帰れないことは判っていたから。



《感想》うだつの上がらない初老の下っ端マフィアで、潜入捜査官をそうと知らず息子のようにかわいがる、少し切なくて“いい人”という難しい役どころだが、パチーノの演技はやはり深い。
マフィアのドンを演じているときと比べると、いい枯れ具合でこんなに振り幅の広い役者は少ないように思える。
そんなレフティに次第に共感し、友情に近い感情を抱きながら、潜入捜査官の宿命の中で葛藤するドニーを演じたジョニー・デップの若さもいい。
優秀捜査員として表彰され、名誉のメダルと賞金を無表情で眺めるシーンに複雑な感情が交錯する。
だが、役者は揃っているものの、映画としてはキレイ事で終わっている感じで、少し物足りない。
本作の主軸はFBI捜査官とマフィアの禁断の友情にあって、背景に危険な仕事にのめり込む男を夫にした家族のドラマがあり、一方にドロドロした欲と裏切りに満ちたノワール&サスペンスの世界がある。
名作『インファナル・アフェア』はこの背景の描き方が丁寧で、かつバランスが絶妙であったが故に、潜入捜査もの特有のハラハラドキドキ感が浮き上がっている。
本作は、背景の描き方がやや粗く、また二人の友情を美化し過ぎている感があって、スタイリッシュな反面、深い葛藤やハラハラ感が弱められていると感じた。だが、パチーノはやはりカッコいい。

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投稿者: むさじー

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