チョコが人をつなぎ、リベラルの風を吹かせる
《公開年》2000《制作国》アメリカ
《あらすじ》フランスの小さな村にやってきた母娘、世界中を旅しているというヴィアンヌ(ジュリエット・ビノシュ)とアヌークは、アルマンド(ジュディ・デンチ)から借りた家でチョコレートの店を開く。
しかしこの村はカトリックを信仰し、封建的な考え方が根付いていて、聖なる断食の季節でもあったため、村長で権力者のレノ伯爵はヴィアンヌを無神論者として差別し、村人には関わらないよう言うのだった。
ヴィアンヌの店には美味しそうなショコラが並び、訪れた客の好みを言い当てショコラを渡すと、次第に村人の心に変化が表れ始める。
夫の暴力に悩むジョセフィーヌは、最初に訪れたとき万引きをし、次に謝罪に来たとき悩みを打ち明け、ある夜、夫の暴力に耐えかね家出してきた彼女を、ヴィアンヌは店で保護する。
気難しいが温かいアルマンドは娘との折り合いが悪く、孫のリュックに会えない寂しさを感じていた。二人はこの店で再会し、絵が上手なリュックは、アルマンドの肖像画を描いて誕生日にプレゼントした。
ヴィアンヌの店に活気が生まれるが、レノによって良からぬことを吹聴され、怒ったヴィアンヌとの溝が深まっていく。
ある日、村の河にジプシーの家族が流れ着き、村人の間では関わらないようにする動きが見えたが、ヴィアンヌだけは関わっていって、ジプシーの青年ルー(ジョニー・デップ)に出会う。
ヴィアンヌは、村人とルーを招いて屋外パーティを催し、デザートはルーの船で食べることにする。しかし、パーティ終了後、ルーの船に火が放たれるという事件が起きる。
犯人はジョセフィーヌの夫で、レノの思惑に沿ったつもりだったが、怒ったレノに追放されてしまう。
アルマンドが糖尿病で亡くなり、ショコラを勧めたヴィアンヌは心無い言葉を投げかけられ、アルマンドの死に責任を感じたヴィアンヌは娘を連れて村を去ろうとするが、村人が自分たちを受け入れてくれたことを知り、とどまることになる。
レノがヴィアンヌを追い出そうと深夜に店を襲うが、商品のショコラが口に入り、あまりの美味しさに心を奪われ、その事件がきっかけで二人は和解する。
ヴィアンヌは村に住み続け、そこへルーが戻ってきて暮らし始めエンド。
《感想》ラストの若い神父の言葉が全てを物語っている。「神の神性より人間性を語りましょう。否定するのでなく、何を受け入れるかが重要です」。
信仰することの意味、他者を思う大切さ、そして家族の絆を謳っている。
ヒロインはあまり生活感のない旅人という謎の美女で、ジプシー男が加わり、二人とも訳あり親子のようで、それら新参者が保守的な町にリベラルの風を吹かせるといった、大人のファンタジーとしてはやや類型的な作りに見える。
しかし、ジュリエット・ビノシュの大人の女性の魅力、ジョニー・デップのアウトサイダー的カッコ良さ、ジュディ・デンチの大きな存在感、役者陣が皆いい。
それに、レイチェル・ポートマンの音楽が全体的にホンワカした雰囲気を作っていて、少しビターなチョコが食べたくなるような、味わい深い映画に仕上がっている。
ラスト近く、伯爵が忍び込んでショコラまみれになり、その結果和解するというのはいかにもコメディタッチの展開で、脚本の難も見られるが、演出のうまさがそれをカバーしている。
ファンタジーだから許せる、心に残るハルストレム・ワールドである。
※他作品には、右の「タイトル50音索引」「年代別分類」からお入りください。