迫る“終了”におびえるクローンの恋と叫びを描くSF
《公開年》2010《制作国》イギリス
《あらすじ》「1952年、不治とされていた病気の治療が可能となり、1967年には人類の平均寿命は100歳を超えた」という設定で始まるSF。
冒頭は手術室の前、介護人になって9年のキャシー(キャリー・マリガン)は、トミー(アンドリュー・ガーフィールド)の「終了」を見守っている。
回想するのは1978年。寄宿学校ヘールシャムでキャシー、トミーとルース(キーラ・ナイトレイ)は仲良しだった。
この施設には謎があり、外界に出ると殺されたり、餓死するという噂があって、「保護官」という先生に指導されていた。
「あなた方の人生は既に決められている」「中年になる前に臓器提供が始まる」「大抵は3~4度目の手術で短い一生を終える」という。
1985年、18歳になって3人はコテージという場所で共同生活を始め、ルースがトミーに接近して恋人同士になり、キャシーは孤立していく。
キャシーは介護人になるべくコテージを出て、ルースとトミーも別れて3人の関係が切れる。
1994年、キャシーは介護人として働き、既にドナーとなっている。
ルースやトミーと再会し、ルースの希望で3人して旅行に行く。
海岸でルースは嫉妬から二人を別れさせたことを謝り、「提供猶予」が頼めるというマダムの住所を差し出す。ギャラリーに提出した絵によって“真剣な恋”だと証明できれば提供猶予があるはずという噂があって、二人にその申請をするよう勧めた。
その後、3度目の手術でルースは「終了」した。
数年前から描き始めた絵を持って二人はマダムを訪ねるが、「猶予」の存在を否定し、更に絵は魂を探るためではなく、魂の有無を知るためと聞く。
絶望し絶叫するトミーだった。
そして冒頭の手術室のシーン。トミーが「終了」し、キャシーにも最初の手術通知が届く。
「自分たちと、救った人の間に違いがあるのか。生を理解することなく命が尽きるのは何故か」と自問する。
《感想》静かに淡々と描かれた映画で、徐々にテーマが見えてくるのだが、単にクローンの不条理、孤独、理不尽さとかいうメーッセージではないと思える。あまりにも人間に同化した世界なので。
人間とて誰でもいつかは必ず死ぬ。クローンから臓器をもらって生き延びた人間も、死から完全には逃れられない。
運命を受け入れざるを得ないことは双方とも同じ。だから、この提供者のように愛し合い、淡々と生きよう……というような。
クローンで描きたかったのは、生には限りがあるその象徴。そして比喩的に描かれるのは現代社会の人間の生涯である。
本作のラスト、トミーは死に直面し、愛するキャシーが見守る中「終了」を迎え、安らかに人生を終えている。
現状を受け入れ、運命に従い、キャシーとの愛という幸せに包まれながら、自らの死を受け入れる。何となく宗教的な諦観を感じる。
イギリス映画らしい地味さ、荒涼とした風景とトーンを抑えた映像。ミステリアスな雰囲気と静かな緊張感に惹き込まれる。
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