『幸せなひとりぼっち』ハンネス・ホルム

偏屈老人と、心優しき隣人たちの寓話

《公開年》2015《制作国》スウェーデン
《あらすじ》妻に先立たれ、長年勤めた会社をクビになったオーヴェ(ロルフ・テッスゴード)は、妻の後を追おうと首吊りを図った矢先、向かいに越して来た家族の騒ぎに邪魔され断念する。
その後、そのイラン人女性パルヴァネ(バハール・パルス)の家族と交流が生まれる。
戸建てが並ぶ集合住宅地の自治会長のオーヴェは口やかましく、近所からは“頑固ジジイ”と思われていたが、何かと頼りにされる存在でもあった。
首吊りの後は、車に排気ガスを引き込む一酸化炭素中毒自殺、列車への飛び込み自殺、猟銃自殺と次々に試みるのだが、すべて失敗し、その度に過去の回想シーンが挿入される。
オーヴェの父は鉄道会社員で、父の事故死を契機に列車の清掃係の職に就き、車中で後に妻となるソーニャ(イーダ・エングヴォル)と出会う。
妊娠した妻とスペインへのバス旅行に出かけ、そのバスの転落事故で妻は流産し、車椅子の生活を余儀なくされてしまう。
しかし、「今を生きる」とソーニャは特別学級の教師になり、生徒たちから愛されるも、がんのため半年前に他界した。
近くに住むオーヴェの親友ルネは介護施設への入所を迫られていて、その迎えの朝、本人も妻も入所に反対していることを知ったオーヴェは、新聞記者と協力し、介護施設の資産隠しを暴露し撃退する。
そして冬の朝、心臓肥大という持病を持っていたオーヴェは一人息を引き取るが、死期を悟っていたのか、パルヴァネに死後の依頼を書き残していて、地域住民に慕われた頑固ジジイは、あの世で妻ソーニャに会うことが出来てエンド。

《感想》主人公が抱えているのは、妻に先立たれた孤独とアイデンティティの喪失。絶望感から自殺を試みるも、周囲のおせっかいで阻まれてしまう。
そしていつしか隣人、子どもたち、ゲイの若者、野良猫にまで愛されてしまう。
『幸せな……』というタイトルが合致するかは分からないが、自殺の度に挿入されるソーニャとのラブストーリーは、不器用な男の半生が垣間見られホッコリする。物語そのものは類型的だが、展開の巧みさで映画に引き込まれてしまった。
不器用な頑固老人の名作映画には『恋愛小説家』『グラン・トリノ』があるが、前者は老いらくの純情ラブストーリーだし、後者は気骨ある老人の死を賭した戦いになっている。
本作は女房と仕事(と車)が生きがいだった男が、二つを同時に失って途方に暮れている。その孤独を救ってくれたのが異文化交流的な隣人で、皆に愛され惜しまれながら妻の元へ去る男の物語である。
いわば優れたホームドラマの枠組みかと思える。枠組み内だから安定しているし、それが不満の要素でもある。
スウェーデンは社会福祉の厚い国として知られるが、近年は利益優先の企業の社会福祉事業参入で多々問題が発生しているらしく、劇中で福祉施設職員が悪役のように描かれているのが印象に残る。日本の近未来のようでもある。

※他作品には、右の「タイトル50音索引」「年代別分類」からお入りください。

投稿者: むさじー

名画座通いの昔からネット配信の現代まで、温故知新、共感第一、ジャンル無節操をモットーに選んでいます。 何度も、観る度に感動する映画は大切ですが、二度と観たくない衝撃に出会うのも楽しみです。

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