『人間の値打ち』パオロ・ヴィルズィ

金か愛か存在意義か?シニカルな幸福論

人間の値打ち

《公開年》2013《制作国》イタリア、フランス
《あらすじ》クリスマスイブ前夜のイタリア・ミラノ郊外で1件のひき逃げ事件が起き、誰がひき殺したのか、半年前に遡り、関わった3人の視点から謎が暴かれていく。
1)小さな不動産屋を営むディーノ(ファブリッツィオ・ベンティボリオ)は一獲千金を求め、富豪で投資家のジョバンニに取り入って、多額の借金をしながら投資に手を出す。ディーノが帰宅すると、警察が娘のセレーナを訪ねてくる。
2)富豪ジョバンニの妻で有閑マダムのカルラ(バレリア・ブルーニ・テデスキ)は、裕福だが居場所のない生活を嫌い、劇場再建に自らの存在意義を見い出そうとする。
ある夜、息子のマッシが泥酔して帰宅し、夫ジョバンニの投資が上手くいっていないことを知る。そんなところへ警察がマッシを訪ねてくる。
3)ディーノの娘・セレーナ(マティルデ・ジョリ)は、ジョバンニとカルラの息子・マッシを恋人に持つが、そんな彼氏にウンザリしているところに、貧しいが豊かな感性を持った青年ルカに出会い、愛を深めていく。
4)最終章で全てが明かされる。
ある夜、泥酔したマッシを送るよう頼まれたセレーナは、ルカを伴って迎えに行き、ルカの運転する車が、自転車の男性を撥ねてしまう。動転したルカはそのまま走り去ったというのが事件の真相だった。
酔って何も覚えていないマッシは両親からも警察からも疑われる。
セレーナのメールから真相を知ったディーノは、犯人と疑われているマッシの母カルラから98万ユーロをゆすろうとする。
やがてルカは逮捕され、過失致死罪と救護義務違反で翌年秋まで服役するが、セレーナとはハッピーエンドになる。
一方、ディーノは大金を手にして歓喜するが、カルラは元の裕福だが満たされない暮らしに逆戻りしてエンド。
クレジットが流れる。「ひき逃げ事故で死亡した男性には、生涯賃金を計算し、保険から慰謝料22万ユーロ(約3000万円)が支払われた。この金額は“人的資本”と言われ、すなわち“人間の値打ち”だ」。



《感想》あるひき逃げ事件を軸に、それに絡む3人がそれぞれ金、存在意義、愛情を求める姿を通して、人間の欲望の本質、幸福のあり方を問う濃密な人間ドラマであり、良質なサスペンスになっている。
ストーリーそのものに目新しさは見えないが、3人の視点という描き方で浮かび上がってくるものがある。
人間は誰しも夢や欲望に生きる意味を求め、またそれから離れ難いがゆえに、ときとして道を誤ったり、真の幸福を見逃したりする。人間の欲望と家庭の事情が絡み合って、生きていくことの切なさも伝わってくる。
この見せ方のうまさは、脚本の勝利なのだろう。
しかし、この結末でいいのか、という気はする。被害者は少額の慰謝料で葬られ、ゆすり男は大金を手にしながら咎められず、ひき逃げ男は恋人とハッピーエンド。どこか、シニカルなメッセージという気はするが。

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投稿者: むさじー

映画レビューのモットーは温故知新、共感第一、良品発掘。そして、世間の評価に関係なく私が心動かされた映画だけ、それがこだわりです。やや深読みや謎解きに傾いている点はご容赦ください。 映画は広くて深い世界、未だに出会いがあり発見があります。「いやぁ~映画って本当にいいものだ」としみじみ思います。