『ユリゴコロ』熊澤尚人 2017

イヤミスの世界だが、物語の妙味が楽しめるサスペンス

ユリゴコロ

《あらすじ》亮介(松坂桃李)は婚約者の千絵(清野菜名)とともに高原のレストランを経営しているが、ある日、千絵が謎の失踪を遂げ、さらに父洋介が末期ガンであることが発覚する。
そんな折、亮介は父の押入れから『ユリゴコロ』と書かれた1冊のノートを見つけ、そこには創作か現実か、殺人者・美沙子の半生が綴られていた。
以下【ユリ】『ユリゴコロ』の内容と、【現在】現在編が交互に描かれる。
【ユリ】美沙子(成人後は吉高由里子)には幼少期から心の拠り所というべき「ユリゴコロ」が欠けていて、他人との関わりを避け一人遊びをする少女だったが、ある日友達を池に突き落として溺死させたとき、初めて喜びに近い感情を抱く。
中学生のときには、帽子を側溝に落として拾おうとしている少年と、その側溝蓋を持ち上げている若者がいて、美沙子は手伝うふりをして蓋を押し下げ、少年を殺してしまう。
その後も、精神を病んだ女友達のリストカットを手伝って殺したり、ナンパの若者を階段から突き落としたり……。人を殺すことが心の拠り所になってしまう。
【現在】『ユリゴコロ』を読んだ亮介は、父の目を盗んで続きを読むために実家に通いだす。そんな亮介の元に千絵の友人という細谷(木村多江)が訪ねてきて、捜索の結果、千絵は暴力団に関わっていたことが判明する。
【ユリ】専門学校を卒業した美沙子は就職するがうまくいかず、生活のため売春を始め、そこで洋介(松山ケンイチ)に出会い親しくなる。
しかし洋介から「過去に子どもを殺した罪を負っている」と告白され、彼は性的不能だった。かつて側溝の蓋を落として少年を死に至らしめた青年こそ洋介だった。
そんな折、美沙子が誰の子とも分からない妊娠をし、二人はその子を育てる決心をして結婚。しばらくは三人の幸せな生活が続いた。
しかし警察の来訪を受け、罪の意識に悩むようになった美沙子は自殺未遂を起こし、『ユリゴコロ』で全てを知った洋介は自分の手で死なせることが最善と、ダムに連れて行くが耐えられず、美沙子を解放し別れた。
【現在】『ユリゴコロ』を読んだ亮介は美沙子の子が自分であると確信した。一刻も早く千絵を見つけたい亮介は、捜索を続ける細谷から都内の暴力団オフィスに監禁されていることを知り、包丁を持ってオフィスに向かうが、着いたとき既に暴力団員は全員殺されていて、無事に千絵を救出した。
現場にオナモミの実が落ちていたことから、全ての疑念が確信に変わる。細谷こそ(逃亡のため整形したが)亮介の母・美沙子だった。
美沙子は病室の洋介に会いに行き、その姿が若い頃の二人に重なってエンド。



《感想》イヤミス女王の一人・沼田まほかるの小説が原作。設定や展開はだいぶ異なるようだが、映画は「韓国サスペンス」に近い雰囲気で、ドロドロ感満載で見応えがあった。
殺人を心の拠り所にしていた少女が、愛に目覚めていくというのがテーマなのだろうが、潜在的な殺人願望というのは理解できても、やはり異常性癖の世界なので、共感とか感動というのは薄い。
だが、練られた物語でサスペンスの妙味は十分に味わえるし、面白い。
ご都合主義とツッコミどころが散見されるが、中でもラスト近く、暴力団のオフィスに踏み込んだら、皆すでに斬殺されていた、それも女性の手で、というのはいかにもリアリティに欠ける。

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投稿者: むさじー

映画レビューのモットーは温故知新、共感第一、良品発掘。そして、世間の評価に関係なく私が心動かされた映画だけ、それがこだわりです。やや深読みや謎解きに傾いている点はご容赦ください。 映画は広くて深い世界、未だに出会いがあり発見があります。「いやぁ~映画って本当にいいものだ」としみじみ思います。