『ラストエンペラー』ベルナルド・ベルトルッチ

歴史と運命に翻弄された皇帝の波乱の人生を描く

ラストエンペラー/オリジナル全長版

《公開年》1987《制作国》イタリア、イギリス、中国
《あらすじ》1950年、政治犯収容所で戦犯として自由を奪われ自己批判を迫られる愛新覚羅溥儀(ふぎ=ジョン・ローン)の収容所でのその後と、遡って1908年、3歳にして満州国皇帝に即位し成長してきた物語が並行して描かれる。
幼い頃の溥儀は皇帝に即位したものの、紫禁城の中でのみ皇帝という立場にあり、周囲は共和国に制圧されていた。実母とは引き裂かれ、幼少期の心の支えは乳母だけ、少年期には家庭教師として訪れたレジナルド・ジョンストン(ピーター・オトゥール)から西洋の文化を学んだ。
そして日本軍の満州進出があり、成長した溥儀は甘粕(坂本龍一)らと接近し、城外への脱出だけでなく改革を志すようになる。
ところが’24年の北京政変で溥儀ら一族は紫禁城を追放され、日本の庇護下で天津に暮らすこととなり、さらに皇后・婉容と側室・文繍の確執が生まれ、側室は離婚したいと去り、皇后は日本側スパイ・川島芳子の勧めでアヘンへと走ってしまう。
’31年の満州事変で関東軍が満州全土を占領し、関東軍主導で中華民国から独立して満州国を建国した。’34年に溥儀は満州国皇帝となるが、既に日本の操り人形でしかなく、溥儀には日本や各国と対等な関係を築くことは出来なかった。
やがて第二次世界大戦末期の’45年、ソ連による満州侵攻と日本の敗戦により溥儀は退位、満州国は滅亡し、満州地域の争奪戦が行われ、最終的に中華人民共和国の領土となった。そして同年、溥儀は日本への亡命途中にソ連軍に捕らえられた。
’59年、溥儀は特赦により収容所を出て庭師として暮らす。’60年代半ばには中国全土を文化大革命の嵐が吹き荒れていて、街には紅衛兵のデモが溢れ、溥儀は街をさすらった末、かつて暮らしていた紫禁城へ赴く。玉座に座ろうとする溥儀を咎める守衛の息子に対し、皇帝であった証拠として隠してあった「小さな筒の中のコオロギ」を差し出し、子どもが驚いたときには姿を消していた。



《感想》激動の歴史の荒波にもまれて、崇められ、後に虐げられ、最後は一市民となった溥儀の運命に翻弄された人生が、歴史的流れとともに描かれる。
一大叙事詩であり、満州国の歴史を知る物語としても興味深く、その歴史の進行と過去の回想の巧みな展開に引き込まれる。皇帝としての溥儀の若き日々と、収容所で「告白」を迫られる溥儀が交互に、時の流れに沿って描かれるので混乱することなく、よどみのないドラマになっている。
そして圧巻は故宮を借り切っての壮大なロケで、そのスケール感と映像美に圧倒される。今ならCGタップリのはずだが、全て本物というのが凄い。
ラストシーンの「コオロギ」にも驚かされる。冒頭の溥儀が3歳で即位するシーンで、幼い溥儀の気を紛らわすために与えられた筒の中の生きたコオロギが伏線だが、もちろん、コオロギが60年以上も生きる訳はないので、面白い比喩に思えた。永い間閉じ込められたコオロギと同様に、溥儀も紫禁城に始まり収容所までその半生を幽閉されたまま過ごし、今、やっと解放されて自由の身となった。そして溥儀の姿は消え、帰らぬ人となった……といったところか。
史実に基づいてはいるが、それに忠実な歴史物語という訳ではなく、人物の個性を際立たせた愛憎の人間ドラマとして秀作である。

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投稿者: むさじー

映画レビューのモットーは温故知新、共感第一、良品発掘。そして、世間の評価に関係なく私が心動かされた映画だけ、それがこだわりです。やや深読みや謎解きに傾いている点はご容赦ください。 映画は広くて深い世界、未だに出会いがあり発見があります。「いやぁ~映画って本当にいいものだ」としみじみ思います。