東西冷戦下の米ソ人質交換交渉を描いたサスペンス
《公開年》2015《制作国》アメリカ、ドイツ、インド
《あらすじ》1957年の東西冷戦下、米ソは核保有の情報を得るため、互いにスパイを送り込んでいた。
ある日、ソ連側のスパイ・アベル(マーク・ライランス)がFBIに逮捕され、彼の弁護をドノヴァン(トム・ハンクス)が請け負うことになる。
当初アベルに向けられたアメリカ国民の怒りは、やがて彼を弁護するドノヴァンにも向けられ、家に銃弾が撃ち込まれ家族まで危険にさらされてしまう。
裁判では死刑が下されるものと思われたが、ドノヴァンの「将来、自国のスパイが敵国に捕らえられた際の交換要員に生かしておくべき」という説得に、禁固30年の判決となる。
そして二人には、国や立場を超えた信頼と友情が芽生える。
一方、アメリカのスパイ偵察機パイロットのパワーズは、ソ連上空を飛行中に襲撃を受け、不時着して捕虜になり、東ベルリンでは無実の大学院生プライヤーがスパイ容疑で身柄を拘束されていた。
その頃の三国の情勢は、ソ連に支配された東ドイツと、アメリカに支配された西ドイツに分かれ、東ドイツの住民が西ドイツに逃げ始めたため、それを防ごうとソ連がベルリンに壁を作るという状況下にあった。
そして米国の命を受けたドノヴァンは、水面下で両国を相手に、人質交換交渉をすることになる。
米CIAはパワーズの返還のみを主張したが、ドノヴァンはプライヤーを含めた2対1の交換を主張した。自国のスパイを取り戻したいソ連と、大国アメリカとの交渉実績が欲しい東ドイツとの間で、交渉は混迷を極めた。
人質交換は、早朝の東西ドイツ国境に架かるグリーニケ橋の上、そこでドノヴァンとアベルは再会を喜び、交渉に臨んだ。プライヤーの解放が遅れ、じらされながらも無事に二人の身柄を確保し、交渉は成功を収めた。
ドノヴァンはその後、多くの人質解放に貢献し、アベルは自国で自由を与えられ余生を過ごしたというクレジットが流れてエンド。
《感想》実話を基にした、地味で静かで重い雰囲気のドラマ。
主役はドノヴァンだが、スパイ・アベル役のマーク・ライランスの存在感が凄い。スパイらしくなく、絵を描くのが趣味という静かな初老の紳士。
ところがアトリエにはスパイ道具が隠されていて、逮捕されても慌てる素振りはなく、どこか闇を背負っている風で重厚な雰囲気を醸し出している。
空虚さをにじませ、微妙な表情の変化を見せるこの迫真の演技あったればこその傑作であり、アカデミー賞助演男優賞を受賞している。
脚本はコーエン兄弟とマット・チャーマン。派手なアクションシーンなどはないが、随所にエンタメ要素と滋味あふれる会話を盛り込み、スリリングなサスペンス映画に仕上げている。重いが、決して退屈しない。
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