人の道を捨て、己の正義を貫いた男の壮絶な生き様
《あらすじ》昭和63年、広島の巨大組織・五十子会系加古村組の経理担当・上早稲がリンチを受けるシーンから始まる。当時、加古村組は地元暴力団尾谷組との抗争が激化していて、上早稲が失踪したことから呉原東署の刑事・大上(役所広司)と新人の日岡(松坂桃李)が捜査に乗り出す。
大上の捜査は強引で、喧嘩を売って相手が暴力を振るった瞬間取り押さえたり、監視カメラの録画テープを盗むためボヤ騒ぎを起こしたり、加えてヤクザとの癒着が見えていて、日岡はそんな大上に反感を抱くようになる。
そんな中、クラブのママ里佳子(真木よう子)を巡る三角関係で尾谷組の若者が殺され、尾谷組の若頭・一ノ瀬(江口洋介)は復讐しようとするが、大上からの3日以内に上早稲の遺体発見と加古村組逮捕の約束で思いとどまる。
そして里佳子をエサに加古村組員を拷問して、上早稲殺害を自供させ、孤島での遺体発見にこぎつける。
一方、日岡は大上の違法捜査を県警の嵯峨監察官(滝藤賢一)に報告するが、まともに取り合ってもらえず、大上とヤクザとの関係を記したノートを捜すよう命じられる。大上には14年前、加古村組組員を殺害した容疑がかけられていた。
遺体の発見で捜査は進展するかに見えたが、突然新聞記者を名乗る男が署に現れ、大上の違法捜査の取材を求めて来て、大上は自宅謹慎となり、一ノ瀬との3日間の猶予が守れず、尾谷組と加古村組の全面戦争が始まった。
それでも大上は抗争を終わらせようと、加古村組の後ろ盾にいる五十子組長(石橋蓮司)を必死に説得するが聞き入れられず、大上は行方不明になってしまう。
日岡は大上の行方を捜すうち、14年前の殺害犯人は実は里佳子で、妊娠中だった里佳子を大上が庇っていたことを知るが、大上は水死体で発見される。
大上を殺したのが加古村組と知った日岡は、大上の敵を討つために、一ノ瀬らを五十子のパーティに呼び寄せ、五十子の首を取らせた上で、一ノ瀬らも逮捕してしまう。
その後、日岡は大上のノートを嵯峨に渡すが、そこには嵯峨のヤクザとの癒着も記されていた。そして動転した嵯峨から県警本部への誘いを受けるが、日岡はそれを断り、この地で大上の遺志を継ぐ覚悟を決めていた。
《感想》終始バイオレンスが疾走している感があり、かつての深作欣二ら東映実録路線への熱いオマージュを感じさせるが、さらに豚の糞によるリンチ、腐乱した水死体の描写、生首のアップと、その生々しく、悪趣味でえげつないところは更に上をいっている。目をそらしたくなるが、目が離せない。
そんな殺伐とした描写から一転、メチャクチャだった大上が抗争終結に向け奔走して死を迎え、汚職にまみれた刑事が実は市民を守るためだったという展開と、人情話めいたその背景を知るや急にウェットな気分になる。この変わり身と、悪から人間を描き出す持ち味は白石ノワールの魅力である。
その生き様を知って、日岡は遺志を継ぐまでに成長し、さらに自分の恋話が大上による美人局だったことが判り、これは苦笑いするしかないというエンディングは、映画を後味のいいものにしている。
役所の存在感は圧倒的で、脇もみなハマリ役だった。
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