『女神の見えざる手』ジョン・マッデン

ロビイストという仕事で政治の裏側に暗躍するヒロインを描く

女神の見えざる手

《公開年》2017《制作国》アメリカ、フランス
《あらすじ》冒頭、敏腕ロビイストのエリザベス・スローン(ジェシカ・チャステイン)は連邦議会聴聞会の証人席にいた。
その3か月前、スローンは所属する大手ロビー会社内で、新たな銃規制法案を巡り銃擁護の立場で動くよう命を受け、それを断り、4人の部下を連れて、シュミット(マーク・ストロング)がCEOを務める小さなロビー会社に移った。
そのときスローンが信頼を寄せる部下ジェーン(アリソン・ピル)は意外にも移籍を拒否した。
銃規制法案反対派が優勢に進める中、スローンたちは立場が見えない議員の奪い合いに走り、闘いのための盗聴やスパイ活動も始まった。
新たな部下エズメ(ググ・パサ=ロー)がかつての銃乱射事件の生存者と知り、テレビで暴露して同情の機運を高めるが、反対派の男に襲われる事件が起き、それを居合わせた男が銃で守ったことから、逆に銃の必要性が声高に叫ばれ始めた。そしてエズメはスローンの元を去った。
ジェーンがスローンの上院倫理規定違反を証明できる書類を発見した。それはインドネシア法案の推進議員の派遣費用を非営利団体が支出したとされるものだが、書類のサインはスローンのもので、視察と言う名目の接待を意味していた。その容疑を認めた上でスローンは、「激震」というファイルを開くよう告げる。そこにはライバル会社代表デュポンから銃規制法案反対にまわり、聴聞会を仕切れと脅されるスパーリング上院議員の動画が映されていた。
自らのサインを仕組んだのも、動画を仕込んだのもスローンで、ライバル会社に残したジェーンはその密偵だった。スローンは連邦矯正施設に収監され、スパーリングとデュポンの聴聞会が開かれることになる。出所してエンド。



《感想》ロビイストとは政府を影で動かす戦略のプロ。敵を出し抜き、味方をも欺き、勝利のためなら倫理すらお構いなし。勝利への執念、それを支えているのは己の信念という。
ワーカホリックと言えるほど仕事一途で、眠らないために刺激薬物を飲み、性欲を満たすためにエスコート・サービスを利用するという全く新しい女性キャラクター。ダーク・ヒロイン(ヒーロー像に近い)だが、強くてカッコいいだけでなく、部下や仲間を巻き込まない漢気(?)があって、密偵ジェーンたちから寄せられる信頼は彼女が持つ人間性、カリスマ性からきているものだろう。志に共感する仲間を持つ、それがリーダーの資質なのだとも思える。
スローンが仕掛けた罠とは、自らがロビー活動を規制する法律を犯し、それを敵に暴かせるよう仕向け、その後に敵のもっと深い闇を明からさまにすることで、まさに肉を切らせて骨を断つ戦法。この凄さを支えるのは信念以外にはない。
映画は展開が早いし、馴染みのない専門用語が飛び交うから観客は追いつくのが大変だが、とにかく面白い。
また、銃規制推進という反主流の立場で、その真偽はともかく政治の裏の世界まで描いてしまう、アメリカ映画(フランス合作だが)の凄さも感じる。

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投稿者: むさじー

映画レビューのモットーは温故知新、共感第一、良品発掘。そして、世間の評価に関係なく私が心動かされた映画だけ、それがこだわりです。やや深読みや謎解きに傾いている点はご容赦ください。 映画は広くて深い世界、未だに出会いがあり発見があります。「いやぁ~映画って本当にいいものだ」としみじみ思います。