『笑う故郷』ガストン・ドゥプラット他

大作家と、ネタにされた市民の水面下の闘いをシニカルに描く

《共同監督》マリアノ・コーン《公開年》2016《制作国》アルゼンチン
《あらすじ》スペインの豪邸で暮らすノーベル文学賞作家ダニエル・マントバーニ(オスカル・マルティネス)は受賞して5年、作品は全く書いていない。そこへ舞い込んできた故郷アルゼンチンのサレスからの便り「名誉市民の称号を受けて欲しい。講演もお願いしたい」。
ダニエルは20歳で故郷を捨て40年戻っていない。故郷ネタの多いダニエルは自嘲気味に語る「作品は町を出られず、私は戻れない」。
一人で故郷に向かったダニエルは、迎えの車のパンクで野宿したりしてやっと町にたどり着く。幼なじみのアントニオ(ダディ・ブリエバ)と再会し、ダニエルのかつての恋人イレーネ(アンドレア・フリヘリオ)と結婚したことを知る。講演会に参加した若い女性が夜、ホテルに押しかけて誘惑されるが、この女性が後日、アントニオ夫妻の娘と分かって驚くことになる。
絵画コンクールの審査員を押し付けられて落選者の恨みを買い、ダニエルにたかる者も出れば、招待の無理強いを拒否したことで憎む者も現れる。
ダニエルの周囲が徐々に騒がしくなって、身の危険を感じたダニエルはスペインに戻ろうとするが、アントニオからの狩りの誘いを受けざるを得なくなり、森で狩猟の獲物の如く走らされ、背後から銃弾を浴びて「オシマイ」。
一転して厳かなセレモニー会場、てっきりダニエルの葬儀かと思いきや、ダニエルの5年ぶりの新作『名誉市民』の出版記者会見で編集者が語りだし、これまでの話は本の中の物語だったという(してやられた)エンディング。

《感想》文学の世界的大家で、権威に盾突き、モラルや倫理に縛られない芸術を説く作家が、閉鎖的な地方都市に帰り、嫉妬や反発といった市民感情に遭遇して戸惑い、一方で今まで強く拒否してきた権威に対するおもねりにも、人間関係によるしがらみから迎合しなければならず窮地に立つ。
ダニエルは故郷の人物や行動、その閉鎖性を徹底的にからかい風刺するのだが、かつてダニエルが小説の素材とした事柄が故郷の人たちの反発のネタになってしまう。
そして、ダニエルが最も忌み嫌っていた“お付き合い”に翻弄される大作家と、文学とは無縁な市民の間の不協和音が徐々に大きな亀裂にまで発展してしまう。
その有様を、登場人物一人ひとりの所作、心理を観察するように客観的に描いている。市民だけでなく、大作家の俗物ぶりも皮肉で苦い笑いを含んだ突き放した描き方をしている。
オチだけでなく、優れたブラック・コメディである。
主演のオスカル・マルティネスは、2014年のオムニバス映画『人生スイッチ』にも出演していたが、本作ではまるで一人芝居の圧倒的な演技で、ヴェネチア国際映画祭主演男優賞を受賞している。

※他作品には、右の「タイトル50音索引」「年代別分類」からお入りください。

投稿者: むさじー

名画座通いの昔からネット配信の現代まで、温故知新、共感第一、ジャンル無節操をモットーに選んでいます。 何度も、観る度に感動する映画は大切ですが、二度と観たくない衝撃に出会うのも楽しみです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です