『ラブホテル』相米慎二 1985

地獄の淵をさ迷う男女のすれ違いのメロドラマ

《あらすじ》経営する出版社が倒産し闇金に多額の借金を背負った村木(寺田農)は、ラブホテルにデリヘル嬢の名美(速水典子)を呼んだ。自暴自棄になった彼は女を凌辱し道連れにして死のうと思っていたが、用意していた性具に名美が激しく反応し、その溢れるような生命力に驚嘆した村木は、名美を残して部屋を立ち去った。
2年後、村木はタクシー運転手になり、取り立てが及ばないよう妻・良子(志水季里子)とは離婚していたが、良子はヤクザが来ることはない朝、弁当を持って村木のアパートを訪れていた。
ある夜のタクシーでの仕事中、村木は2年前に会った名美を見かけて後をつけ、流しを装って彼女をタクシーに乗せることに成功し、求めに応じて横浜の海岸に行った。そこで彼女は入水自殺を謀ろうとし、村木は慌ててそれを制止した。
名美は服飾店員で、妻子ある上司・太田と不倫関係の泥沼状態にあって、太田の妻が職場に怒鳴り込んできたことから、仕事をクビになっていた。名美も2年前の村木を思い出したが、「あなたのお陰で救われた。あなたは天使だ」と言う村木に困惑するだけで、憎悪の感情は示さなかった。
村木の強い贖罪の気持ちを知った名美は、太田の自宅にある自分の写真や書類を取り返して欲しいと村木に頼み、村木は強盗まがいに乗り込んで、興信所の資料を奪うのだった。
そんな名美が村木に求めたのは2年前のラブホテルの続きだった。同じホテルの部屋で、同じ服装で再現しようとするが、二人の思いはすれ違うばかりだった。
翌朝、名美が目を覚ますと村木は消えていて、名美が手料理の材料を持ってアパートを訪れると村木は既に越していた。帰り道、名美は村木の部屋に向かう良子とすれ違う。そこへ花吹雪が舞ってエンド。

《感想》脚本は石井隆。男は女を道連れに地獄に堕ちようとしたが、燃える女の美しさに心を奪われて思いとどまり、2年後には女が地獄の淵にいて、男の必死の罪滅ぼしの行為で救われる。
名美にとって2年前の村木との出会いは心の傷に違いないのだが、心の奥には忘れられない“燃えた”記憶があって、再会し二人の仲が近づいたとき、名美は村木に生きる支えを求めるが、それに応える情熱を村木は既に失っていた。
だから、二人の気持ちはすれ違ったまま一つになることはなかった。そんな男女の切ないメロドラマである。
傷心の名美を乗せた村木のタクシー内に流れるのは切なくやるせない山口百恵「夜へ…」。埠頭で落としたイヤリングを探す二人の心が通い合うそのシーンに流れるのは、狂おしく魂を揺さぶるもんた&ブラザース「赤いアンブレラ」。ともに痛いほど心に沁みる選曲である。
相米監督得意の長回しも印象に残る。名美が不倫相手の上司・太田に電話するが、別れたがっている彼にすぐ電話を切られ、それでも彼女は思いの丈を延々と受話器に向かって話し続けるシーン。一人芝居の孤独がヒシヒシと伝わってくる。
石井隆の「名美シリーズ」の中では、暴力的性描写は少なく穏やかな方であり、この8年後に石井自身が撮る『ヌードの夜』と並ぶシリーズの傑作である。

※他作品には、右の「タイトル50音索引」「年代別分類」からお入りください。

投稿者: むさじー

名画座通いの昔からネット配信の現代まで、温故知新、共感第一、ジャンル無節操をモットーに選んでいます。 何度も、観る度に感動する映画は大切ですが、二度と観たくない衝撃に出会うのも楽しみです。

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