息子の戦死を機に、静かな抵抗運動に殉じた夫婦の実話
《公開年》2016《制作国》ドイツ
《あらすじ》1940年の戦勝ムードに沸くベルリン。機械工のオットー(ブレンダン・グリーソン)と妻アンナ(エマ・トンプソン)は慎ましく暮らしていたが、戦地で一人息子を失い悲しみに暮れる。
夫妻が住む団地には、迫害を受けるユダヤ人女性、その女性に親切な女性郵便局員、その元夫でギャンブル好きのダメ男、政府への反発心を胸に秘めた判事などが住んでいたが、ヒトラー政権下の監視社会にあって互いに心を閉ざし暮らしていた。
息子の死で心の拠り所を失った夫妻は悲しみの中、オットーがヒトラーへの怒りのメッセージをポストカードに書き始める。「総統は私の息子を殺した。あなたの息子も殺されるだろう」などと記して、それをそっと街中に置いた。
息子を失った夫婦のささやかな反体制運動だったが、二人はそのことに魂の解放を感じ、一方の軍部、警察は血眼の捜査を始めた。
捜査に当たったエッシャリヒ警部(ダニエル・ブリュール)は、カードが置かれた場所をマッピングし、目撃情報から似顔絵を作り、強い軍部の圧力で冤罪の男を射殺した。そしてある日、オットーが工場内でカードを落としたことから、発覚してオットーにたどり着く。
オットーは、(自殺したと聞いていた)冤罪の男が実は射殺されたことを知って、あっさりと自供し、妻は無関係と訴えたものの、アンナも夫に従うように自供してしまう。そして二人は処刑された。
全てのカードに目を通していたエッシャリヒ警部は、冤罪の男を殺したこと、夫の願いを聞かず妻を逮捕したこと、良心の呵責に耐えられず、その全てのカードを警察署の窓から通りにばらまき、拳銃自殺をしてエンド。
《感想》原作はゲシュタボの文書記録に残された実話を基に、終戦直後に書かれた小説「Alone in Berlin」で映画の原題でもある。地味で重いストーリーを淡々と描いているのだが、サスペンス風の展開に思わず引き込まれていく。
ナチスものだが、ユダヤ人迫害がテーマの中心にあるわけではなく、戦争で息子を亡くした夫婦のやり場のない思いが静かな戦いに変わっていく様が描かれる。そして、戦時下にあっては誰もが被害者であり、自分を曲げなければ生きていけない、そんな悲壮感が伝わってくる。
主人公の近くに住むナチス青年は、同じアパートに住み昔可愛がってもらったユダヤ人の老女を連行しなければならず、職務に忠実であろうとした警部は、上からの圧力に屈して冤罪の男を殺し、逮捕した真犯人の覚悟に己の無力と社会の不条理を抱き自死する。誰もが孤独な時代だった。
主演二人の演技に引き込まれる。言葉少なに控えめながら、そのさりげない会話や仕草が、夫婦愛の深さや二人が抱いた絶望感を雄弁に物語っていて、ドラマをより奥深いものにしている。
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