『イングロリアス・バスターズ』クエンティン・タランティーノ

ナチス、米軍、ユダヤ女性が激突するウェスタン調戦争映画

イングロリアス・バスターズ

《公開年》2009《制作国》アメリカ、ドイツ
《あらすじ》主要人物は三人。アルド・レイン中尉(ブラッド・ピット)は8人から成る米軍のパリ潜入部隊のリーダーで、冷酷非情な性格。
ハンス・ランダ大佐(クリストフ・ヴァルツ)はユダヤハンターの異名を取るナチス親衛隊幹部で、残虐にして狡猾な性格。
ショシャナ、後にミミュー(メラニー・ロラン)は家族をランダ大佐に殺され、一人生き残ったユダヤ人女性で、名を変えて伯母の映画館を継ぎ、ナチスへの復讐を目論む。物語は5部構成で展開する。
1)ランダ大佐率いるユダヤ狩りで匿われていたユダヤ人家族が虐殺され、ショシャナだけ逃げ去る。
2)レイン中尉率いるバスターズは、容赦ない残忍さでナチス狩りを進める。
3)ミミューと名を変え映画館主となったショシャナに、ドイツの英雄軍人・フレデリックが好意を寄せ、その映画館でナチスのプレミア上映会を開催することになる。ショシャナは映画館ごと爆破する計画を立てる。
4)ドイツ女優だが実は米軍スパイのハマーシュマルクは、地下の居酒屋で英軍幹部と密会するが、ランダ大佐に見破られ、独軍との銃撃戦になる。
5)プレミア上映会を舞台に、爆弾を身に付け潜入するバスターズ、館ごと炎上
させようとするショシャナ、ランダ大佐はナチスの今後に限界を感じて寝返り、テロ計画を見逃しテロを成功させることで、米軍との降伏交渉を優位に進めようと目論む。それぞれの思惑が交錯し映画館は大炎上。しかしランダ大佐の計画通りにはいかず、レイン中尉に額に卍印を刻まれてエンド。



《感想》ヒトラーが殺されるなど史実とは大違い、ナチスドイツより米軍の方が残虐で、ユダヤ人の逆襲という形で単に被害者に終わらせないように描き、戦場場面は全く出てこないものの、裏の殺戮で描いているのはやはり戦争。その残虐描写は目をそむけたくなるシーンもあるし、ハラハラドキドキ感の連続で、展開が読めない。
安っぽい感情移入や同情は不要、破壊し尽くす容赦ない描写こそタランティーノの世界で、そのエンタメ世界へと引き込まれてしまう。
音楽も異色で、タイトルバックに「遥かなるアラモ」、挿入曲に「荒野の1ドル銀貨」。どことなく西部劇の匂いを感じるし、8人の実行部隊というのも「荒野の七人」風の構成。
戦争という舞台を借り、歴史を無視して作り上げた荒唐無稽な西部劇調アクション映画という印象はあるが、ブラック・ユーモアや遊び心に溢れている。
勧善懲悪という狭い視野を超えて、誰しもが善であり悪である、良く言えば人間ドラマの趣きがあって、結末も痛快さがない訳ではないが、駆け引きの後のすっきりしない苦さを残している。
役者ではランダ大佐役のクリストフ・ヴァルツが断然光る。残虐にして狡猾、それに(ショシャナを見逃すあたり)いい加減さも加わり、人間の多面性を的確に(ときに過剰に)演じている。

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投稿者: むさじー

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