『フェンス』デンゼル・ワシントン

父権主義で横暴な主を巡る黒人一家の愛と葛藤のドラマ

《公開年》2016《制作国》アメリカ
《あらすじ》舞台は1957年のピッツバーグ。主人公トロイ(デンゼル・ワシントン)は貧しい黒人の家に生まれ、14歳で自立し、強盗や殺人の前科があり、野球の才能はあったが黒人ゆえにメジャーリーガーにはなれず、ごみ収集作業員をしている。典型的な父権主義、人種的劣等感を持ち、その歪んだ価値観が家族の間に軋轢を生んでいく。
妻ローズ(ヴィオラ・ディヴィス)は妻として夫を支え、母として家族を守っている従順で賢い女性。息子が二人いて、異母兄ライオンズはミュージシャンを目指し家を出ていて、弟コーリー(ジョヴァン・アデポ)はフットボール選手を夢見ているが、父から強く反対されている。
また、トロイにはゲイブという兄がいて、対戦で受けた傷が原因で精神を病み、その見舞金で家を建てたという負い目がトロイにはある。
そして事件が起こる。トロイの愛人アルベルタが妊娠し、トロイは妻に告白するが、出産した後にアルベルタが亡くなり、残された赤ん坊を引き取って、ローズはその母親になる。
コーリーはフットボールの道をあきらめ、軍隊に入って一人前に成長し、やがて父トロイが死去する。葬式に出ないという息子コーリーに母は「トロイは全て息子のためを思って行動してきたし、アルベルタとの子レイネルのおかげで人生をやり直せている」と諭した。家族揃って笑顔を取り戻しエンド。

《感想》原作はオーガスト・ウィルソンの戯曲で、共同脚本も担当している。
妻であり母であるローズのセリフ「父さんの力を保つために私は自分を削った。それが私の選択、私の人生よ」。
見事なほどの割り切りと忍耐強さと適応能力。これを演じたヴィオラ・ディヴィスはアカデミー助演女優賞を受賞している。主役を食う位の存在感で、冗舌というよりわめきっ放しのトロイに比べ、陰にまわってもその表情ひとつで言葉以上の表現をするまさに名演である。
本作はアカデミー賞受賞作品でありながら、日本での劇場未公開という稀な事例らしいが、うなずける気はする。
一つは黒人問題をテーマにした地味すぎるストーリー、もう一つは原作の戯曲に忠実であろうとしたが故の会話ばかりの映画になってしまったこと。ほとんどのシーンが室内と裏庭という舞台演劇風の作りで、映像の特性を生かした表現がほとんど見られない。そこが重すぎるところで、惜しまれる。
だが、ピューリッツァー賞を受賞したウィルソンの言葉は深みがあって素晴らしく、やはり優れた家族ドラマ。これだけ地味で、インディーズとも思える映画が大きな賞をとるアメリカ映画界というのは懐が深い。

※他作品には、右の「タイトル50音索引」「年代別分類」からお入りください。

投稿者: むさじー

名画座通いの昔からネット配信の現代まで、温故知新、共感第一、ジャンル無節操をモットーに選んでいます。 何度も、観る度に感動する映画は大切ですが、二度と観たくない衝撃に出会うのも楽しみです。

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