ブルジョワ弁護士が民主化運動の旗手になるまでの軌跡
《公開年》2013《制作国》韓国
《あらすじ》舞台は1981年前後の韓国。貧困から高卒で苦学して弁護士になったソン・ウンソク(ソン・ガンホ)は、不動産登記や税務を専門にして裕福になり、趣味はヨットというブルジョワ弁護士になった。
かつて苦学時代に食い逃げした飲食店主スネ(キム・ヨンエ)と息子ジヌ(イム・シワン)母子と、弁護士になった後に謝罪し交流を持つようになるが、ある日ジヌが公安に反政府運動の疑いで捕らえられ、そのことが母親に知らされないため、行方不明を案じたスネからウンソクは助けを求められる。
当時の韓国は軍事政権下にあって、国家公安法の名のもとに学生らによる反政府活動を弾圧し、公安は国民の平和、国家への愛と称して非人道的な拷問まで行っていた。
反政府活動被疑者の裁判は、裁判長と検事が事前に落としどころを相談していて、弁護士も国家権力を前に及び腰になっているのが実情だった。そこへウンソクは敢然と立ち向かった。
公安側の拷問の事実を追及しようとチャ警監を証人喚問するが、法廷は公安で占められて裁判は紛糾し、ウンソクの事務所が脱税容疑で捜索を受けるなど圧力がかけられてくる。
そこへ拷問を受けた学生の治療にあたっていたユン軍医から証言の申し出を受け、法廷でその事実が述べられるが、検事側が軍医の脱営の罪をでっち上げ、その証言は認められずジヌたちに刑期が課される判決となった。
その数年後、ウンソクはジヌたちとともに民主化運動の先頭に立って集会を開き、武力で鎮圧され裁判の被告になってしまう。ウンソクの弁護を担当するのは先輩弁護士で、裁判長に渡された弁護人名簿には99名が名を連ね、傍聴席に駆け付けたそれらの弁護士が、一人ずつ返事して起立する様子に、涙をこらえながら微笑むウンソクの姿でエンド。
《感想》映画は釜林(プリム)事件の弁護を担当したノ・ムヒョン(元大統領)がモデルになっている。序盤はてっきりコメディかと思ったが、徐々に社会派裁判劇になっていき、成り上がりから熱血正義漢に、ほのぼのとした男から重厚な男になっていく。このあたりのソン・ガンホの演技力は圧巻である。
脇も素晴らしく、息子を一途に思う気丈な韓国の母、悪役ながら愛国と称して暴力をふるう公安警監のふてぶてしさが印象に残る。これらの熱演が、単なる法廷劇に終わらず、厚みのある人間ドラマと成り得た大きな要因である。
監督デビュー作とのことだが、脚本(共同)も兼ね、これだけ骨太な2時間ドラマを作ったことに感服する。
それにしても、自国の負の歴史であってもそれを正面から捉えて映画化できる制作者側の姿勢、それが記録的な観客動員数を誇る大ヒットになる国民性、隣国ながらこれも凄いことだと思う。
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