『孤独のススメ』ディーデリク・エピンゲ

LGBTをテーマに、それを超えた人間愛と自由を描く

《公開年》2013《制作国》オランダ
《あらすじ》オランダの田舎町に住む中年男フレッド(ドン・カス)は妻を交通事故で失い、息子は仲違いから家を出て一人暮らし。ある日、挙動の怪しいホームレスのテオ(ロネ・ファント・オフ)に出会い、泊めてやり面倒をみるが、家が厳格な宗教的コミュニティにあるため周囲から冷たい視線を向けられる。
やがて役所でテオの名前と住所を知り、住まいを訪ねるとそこには妻サスキアがいて、交通事故で脳障害を負ったこと、施設に入れても脱走してしまうという話を聞く。フレッドはテオを残して逃げるように去るが、テオはいつの間にかフレッドの家に来てしまい、テオは再び家に迎えられる。
サスキアは、フレッドの傍にいたがっているテオの気持ちを理解し、一緒に暮らすことと、マッターホルン(フレッドが妻にプロポーズした場所)に行って欲しいと告げ貯金を渡す。
そして、フレッドはテオと結婚式を挙げるが、そこへ近くに住む二人の知人カンプスが現れてフレッドに対し「かつてフレッドの妻を愛していたこと、そして今テオを奪われたこと」を責め、三人は涙ながらに酒を飲む。
テオをカンプスに預けたフレッドは、サスキアとともにゲイが集まるクラブに出かけ、ステージで歌う化粧した青年(実は息子)を見つめ、それに気づいた息子は涙をためながら熱唱し、歌い切った彼にフレッドは息子の名を叫んだ。その声はフレッドとテオがマッターホルンに登るシーンと重なりエンド。

《感想》登場人物の何とも不思議な関係性と、先の読めない展開に戸惑う映画である。描かれるのはLGBTの世界なのだが、それを否定し、無縁だった男が、テオという異分子や、それを支えようとする妻と関わり、隔離されていたその垣根を鮮やかに跳び越えていく。
宗教に支えられながらも孤独だった男が、それまでの常識や偏見に満ちた世界から抜け出し、自らの心を開放し自由になっていく。バッハしか聴かなかった男が、ゲイの息子が歌う「This is my life」に理解を示すようになる。
原題は「Matter Horn」で邦題と全く違う。原題は象徴的かつ漠然とし過ぎているので、邦題の意図するところは「信仰に縛られたコミュニティを一歩出て、孤独な暮らしを求めたら、別の新しい世界が広がるかも……」と理解した。自分の殻を破ってみる、今までの信念を疑ってみることで一つ前に進めるかもしれない、というメッセージと受け止めた。
監督は「この映画はLGBT作品として撮ったものではない。オランダではLGBTへの理解が進んでいるし、本当に自由な場所ではLGBT問題なんて存在しない」と述べている。然り。
初めての長編映画ゆえに多少の粗さは見える。動物の真似(明らかに異常な行為)が受けて余興に呼ばれるという展開は強引過ぎるし、サスキアは自身の葛藤が描かれない分、いい人過ぎる謎めいたキャラになっていて、一般の感覚からするとやや無理が感じられた。
万人に受け入れられる映画ではないが、真の優しさ、温かさに満ちた異色の秀作である。

※他作品には、右の「タイトル50音索引」「年代別分類」からお入りください。

投稿者: むさじー

名画座通いの昔からネット配信の現代まで、温故知新、共感第一、ジャンル無節操をモットーに選んでいます。 何度も、観る度に感動する映画は大切ですが、二度と観たくない衝撃に出会うのも楽しみです。

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